第3章:始まり

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吐いた息が、白い煙のように立ち上がる。 落ちている枝は雪に濡れていて、どれも使えそうにない。 木の幹に足をかけ、片方しかない腕を上手く使って登っていく。 地上から2m程離れて辺りを見回すと、北の方角で一瞬何かが光った。 流れ星か?…いや、それにしては色が変だ。 民家の明かりにしては不自然だし、モールス信号みたいに点滅もしなかった。 思考がグルグル廻りだし、バランスを崩してしまう。 「わっ!!」 斜面を転がり、木の幹にぶつかって止まる。 片手だったこともあり、受け身をとれなかった。落ちた衝撃で折れた枝を持って、来た道をひたすら登っていく。 念のため、今日は起きて見張りをしていた方が良いかもしれない。光った場所は、明日にでも確認しにいこう。 ほら穴に戻ると、ルルが寝息を立てていた。 指先が霜焼けしたように赤くなっている。 慣れた手つきで火を起こし、ほら穴の室温を上げる。ルルの幼い寝顔を見つめながら、日が昇るのを待った。 太陽が顔を出すと、森の動物たちも動き始める。 昨夜見た光の正体を確認するべく、ひたすら北に歩みを進めると、 5m先に民家のようなものが見えた。 一見空き家のようにも見えるが、微かに人の声がする。 街の外に人間はいない。 しかし、何事にも例外は存在する。 「ルル。これを持って、森に隠れてて」 任務で使う熊除けの宝石を渡す。 「もし熊に会ったら、これを胸の前にかざすんだ。そしたら逃げていくから。 僕が迎えに来るまで、決して森から出てはいけないよ。約束できる?」 ルルの瞳が灰色に曇っていく。 「…大丈夫。ちょっと見てくるだけさ。すぐ戻ってくるよ」 頭をポンと撫でると、わかったと言うように手を離した。 ルルが森に走り出したと同時に、民家に視線を戻す。 生活感は無いが、何かがいるのは確か。 気配を消して、まるで空気の上を歩くように静かに近づいていく。 民家の裏口に回ると、雪が変に沈んでいる箇所を発見した。1つではない。パッと見ただけで10はある。全部地雷だ。踏めば四肢が吹き飛び即死。 こんな人工的な物を使うのは、人間以外に考えられないが… 「エルフなんて本当にいるのかよ」 「知らねぇよ。でもお頭が言うんだ。いるんじゃねぇの?」 若い男二人の声に、警戒心を強める。 お頭、、やはり山賊か? 気配的に見張りは5人。民家自体は小さいし、中はお頭と側近1人だろう。 計7人。そのくらい片腕で事足りる。 裏口近くにいた見張り2人の目を潰し、声を出す前に首を折る。 同様に残りの見張りも片付ける。 「ーさて、ここからだ」 見張りが持っていた短剣を奪い、屋根に上る。 どうやって中に入るかが問題だ。 窓を突き破っても良いのだが、僕の存在が第三者の目に映るのは避けたい。 どこから情報が漏れるかわからないからだ。 「…まぁ、殺してしまえば問題ないか」 短剣を回し、窓を突き破って敵の背後を取る。 「!!」 側近が振り向いたと同時に首を折り、もう一人 の心臓を短剣で貫く。 手が返り血によって赤く染まる。 恐らく短剣で刺した方の男がお頭だ。ガタイの良さでわかる。 血を吐いて倒れるも、死にきれなかったのか、 陸に打ち付けられた魚のように口を動かしている。 「浅かったか」 大きく振りかぶり、もう一度深く刃を差し込む。 血しぶきが視界を埋める。 敵が全死したのを確認し、部屋を調べ始める。 それにしても、左は利き手じゃないから、戦いにくいな。 今回は敵の気配にも気づかない雑魚だったから良かったが、 これから先、どんな奴がいるかわからない。 「ーあ、何者か聞く前に殺してしまった」 本来、人間が生活しているなどあり得ない場所。 この周辺にも、同じように敵の住処があるのか。色々聞きたいことがあった。 …確か、こいつらの狙いもエルフだと言っていた。 集落の地図があるかもしれない。
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