聖女様付き侍女の採用面接2

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聖女様付き侍女の採用面接2

 案内されるまま付いていくと、聖女の象徴である白百合の模様が入った扉の前に着いた。  神官がコンコンと二回ノックすると、扉の向こうから「どうぞ」と涼やかな声が聞こえた。 「聖女様がお待ちです。中へお入りください」    神官に促され、私一人で部屋の中へと入る。  部屋の内装は、白を基調とした清廉な雰囲気で、入室してすぐ目に入る面接用のテーブルには私と同い年くらいの少女が一人だけ。  少女は私を見て立ち上がると、天使のような微笑みを浮かべた。 「初めまして。聖女のエレーヌ・ブランです。本日はご足労いただき、ありがとうございます」 「あ、私はオルトン伯爵家のレティシア・オルトンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」  あまりの美少女っぷりに、一瞬面接に来たことも忘れて見惚れてしまった。  聖女様は、艶やかな黒髪に可憐な菫色の瞳で、女性にしては背が高かった。  体の線が隠れる、ふわりとした詰襟の真っ白な装束が禁欲的で、聖女の神秘性を高めている。  どうぞ、と椅子を勧めた時に見えた手も、指が長く繊細で、同性なのに思わずどきりとしてしまった。 「早速ですが、面接を始めさせていただきます。正直に答えてくださいね」 「はい、お願いします」  いよいよ面接の始まりだ。緊張のせいで手汗が酷いが、そんなことはおくびにも出さず、落ち着いた態度を心掛ける。 「ではまず、あなたは友達と勉強をする約束をしていましたが、ちょうどその日に、前からずっと行きたかったお芝居に一緒に行かないかと誘われました。勉強会は数人で集まる予定で、あなた一人が行かなくても中止にはなりません。お芝居に誘ってくれた人は目上の方です。あなたならどうしますか?」  ……これは、心理テストか何かだろうか?  てっきり、志望動機や自分の家事スキル、得意・不得意分野などを聞かれるものとばかり思っていた私は、予想外の質問に面食らう。  この質問にはどういう意図があるのだろうか。  友達をとるか、目上の方をとるか?  優先順位を正しく判断できるかどうか?  何が正解なのか全く分からないので、直感で答えるしかない。 「……友達との約束が先なので、勉強会を優先します」 「……なるほど。では次の質問です。あなたは、それほど親しくない人から、あなたを信頼して秘密を打ち明けられました。多くの人に関わる重大な秘密です。この話を公に明かせば、人々に感謝され多くの謝礼をもらえるかもしれません。あなたはどうしますか?」  これは正直かなり迷う。多くの謝礼がもらえるかもしれないというのは非常に魅力的だ。  しかし一方で、人の信頼を裏切るというのは、私の信条に反するのだ。  自分に誇れないことはしない。  これは両親の教えで、だからいくら貧しくても、人を陥れてお金を手に入れるようなことは考えもせず、これまで真っ当に生きてきた。  だからこの質問にも、こう答えるのが私の正解だ。 「信頼を裏切ることはできません。秘密は守ります」 「……そうですか」  聖女様はにこりと微笑んだ。どういう意味の微笑みかは分からないが、好印象であることを祈る。  それからもずっと似たような、こちらの思考を測るような質問が繰り返され、十問目を終えたところで聖女様が言った。 「お疲れ様でした。合格です。明日から、よろしくお願いします」  まさかこの場で結果が出るとは考えていなかった私は、嬉しそうに微笑む聖女様を前に、思わずぽかんと口を開ける。 「……え、ご、合格?」  あの質問への回答が、聖女様のお眼鏡にかなったということだろうか? 「はい、合格ですよ。明日からあなたが私の侍女です。衣食住はこちらで保証しますので、必要なものだけ持ってお越しいただければ大丈夫です」 「はい、ありがとうございます! 精一杯努めますので、よろしくお願いいたします……!」  とんとん拍子に進んでいく高待遇の就職に、嬉しさ余って踊り出したい気分だ。なぜか一抹の不安も感じなくはないが、何かある訳もないだろう。  私は、合格のお礼を丁寧に述べて退室した。  扉を閉める時に見えた聖女様の笑顔がやたらとニンマリしていたように見えたが、喜びで胸も頭もいっぱいだった私は、さして気にすることもなく、明日からの準備のためにスキップをしながら帰路についたのだった。
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