送って終わりたい夫婦

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送って終わりたい夫婦

 ――ミナとやり取りをした後、ふと時計に目を遣った。時間は昼過ぎを伝えており、それを知った途端なんだか空腹を感じ始めた。  私はやおら起き上がると、ソファーに腰掛けたまま、両腕を上げて大きく伸びをした。声にならない音が喉奥からひねり出される。その音と重なるようにして、再びLINEの通知音が鳴った。 『ナオ、朝も言ったけど今日は夕飯作らないでいいからな』  旦那・シュウジからだった。 「分かってるって」  そう言葉を漏らすと、同じことを指先で綴った。 『分かってるよ』 『オッケー。また帰るとき連絡する』 『うん、よろしく』  今日の夜は外食しよう、シュウジにそう言われていた。夕方に客先から直帰出来るらしく、早く帰れるからだそうだ。私はその時間に合わせて駅前に向かい、シュウジと落ち合うことになっている。 『じゃあまた!』  シュウジから。私もすかさず返す。 『お仕事がんばって』  よし。送って終わった。 『早く帰れるようにがんばるよ』  う……シュウジから。  ここで終わっても良いのだが、私は負けじと指を滑らせる。 『無理しないでね』 『大丈夫だよ』 『じゃあ連絡待ってるね』 『了解』  ……お分かり頂けただろうか?  なにを隠そう、我が旦那・シュウジもまた「送って終わりたい派」なのである。このように夫婦となり、LINEというツールに姿を変えた今でも、私は送って終わりたい衝動と、同じ派閥のシュウジとの闘いを、日夜繰り広げているのだ。
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