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「気に入ったのなら、僕の部屋に来ますか。二階です」
いつもと同じ抑揚のない声でヤマザキくんが言う。しかもさっさとリビングから出ていくので、私は無意識にお茶を口に含み、戸惑いながらもあとをついていった。
階段は踊り場があり、立派な手すりがあり──脳内がパニックでも、ついうっとりとしてしまう。
「ここです」
運命の扉が開く……のか。
あまりじろじろ見ても、とは思うものの、ヤマザキくんの部屋がいかにもヤマザキくんの部屋だということはすぐに見てとれて、ほっと息をつく。
ヤマザキくんは、八畳はあろうかという洋室を横切って、まっすぐに窓の方に向かった。
一階よりも眺めがいい。そうか、ヤマザキくんはこれを見せてくれようとしただけだろうか。
ヤマザキくんがカギを開いて窓を全開にすると、上質の空気のかたまりが部屋の中に流れ込んできた。
しかし、それにとどまらない。
ヤマザキくんが窓の外に片足を出そうとしている。
「え、ヤマザキくん、危ない……」
言いかけて、窓のすぐ下に一階の屋根が張り出していることに気づく。
「室井さんも来てみていいですよ」
「はい」
気持ちいい。
ベランダとかバルコニーとかではなく、広い四角い空間があった。
そしてその先の眺めは……最高だ。
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