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私は胸の底からせり上げるような興奮を声に出したくて、ヤマザキくんがいるはずの方に勢いよく振りかえった。
「室井さ……危ないです!」
顔の真ん前にヤマザキくんの胸元があり、仰け反る。
「危ないです!」
あとから思えばこの声も低く抑揚のないものだったのだが、彼にしては大きな、そう初めて聞く大きな声。
気が付くと、左腕をがっしりとヤマザキくんの右手でつかまれていた。
声も出ないでそっと右後ろを見ると、私はかなり屋根のすれすれまで進んでいたのだった。
これだけだったのだ。これだけだったのに、私は実は、同年代の男の子にこんなにしっかり体に触れられるのが初めてで、あまりにもびっくりして体を縮めていた。
たとえそれがヤマザキくんだったとしても。
頭上で鳥たちがチチチ、と鳴きながらゆきすぎる声が聞こえた。
私が体勢を立て直すと、彼はあっさりと手を離した。
それだけだったのだ。
それでも私の頭の中は真っ白になっていた。
さっきの興奮と、無表情の中にもきょとんとしたヤマザキくんの顔。
涼しく揺れ動く緑。
降り注ぐ木漏れ日。
光。
風。
なんとも決まりの悪い私の心臓の鼓動。
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