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惰性ブレーキ
夫とは、見合いで結婚した。今や見合いと言う文化はマッチングアプリに駆逐されたかと思いきや細々と残っており、僅かではあるが夫婦を生み出すことに貢献している。
その当事者の私が言うのだから間違いはない。
「ご趣味の方は」と言う今やカビが生えて腐りきった常套句を切欠にして、言葉を重ねお互いを知った上で、健やかなる時も病める時も、豊かなる時も貧しき時も夫婦で支えあい生きていくことを誓いあった。だが、お見合いというものは「狐と狸の化かし合い」のようなもの。
夫は殊の外上手く化けて自分を隠していた。私はそれを見破れなかったことを未だに後悔している。
私の夫は「DV夫」だ。DV、所謂ドメスティック・ヴァイオレンスを精神的に振るってくるのである。
夫であるが、一人で何でも出来てしまう。炊事・洗濯・掃除などの家事全般を完璧にこなしてしまう。大学を卒業してから一人暮らしが長かった杵柄だろう。
逆に私は箱入り娘で家事は全て親任せの甘ったれだった。そんなあたしが結婚を期に親元から離れて炊事・洗濯・掃除を行ったとしても上手くいく筈がない。
夫は私の家事全般に対して文句を言ってくる。自分としてはこなせているつもりなのだが、夫の求めるものは高い。そして、一言多い。
その一言がナイフのように鋭く私の心を抉り刺しにくるのだ。
米の研ぎ方が甘いなあ、糠の味がするし芯も残っているじゃないか。君は米一つ研ぐことも出来ないのか。無洗米にしたらどうだ?
魚が生焼けじゃないか。これではアニサキス症になってしまうではないか。中までしっかり焼くだけの単純なことも出来ないの?
君の料理を食べるぐらいなら、コンビニの弁当の方がよっぽどマシだよ。
シャツが黄色いぞ? 漂白剤を入れ忘れるなと何回も言っているではないか。こんな黄色いシャツでは会社に出られないじゃないか。まぁいい、出勤中にシャツを買う。
ズボンのポケットにティッシュが入れっぱなしだったぞ? 洗濯機にズボンを入れる前にポケットを漁ることも考えがつかないのか? 今日は別の服を着なくてはいかんようだ。
君に洗濯を任せるよりも、クリーニングに出すか使い捨てで服を買った方が経済的だ。
床の埃が隅に溜まってるぞ? 最新の掃除機を買ったのにどういうことだ? 箒で隅に寄せるだけの小学校の時の掃除の癖が未だに抜けないのか?
風呂の浴槽の内側に垢がこびりついているぞ? 洗剤を使わずにシャワーをかけるだけで浴槽の掃除になっていると勘違いしてるのではないか?
君に掃除を任せるぐらいなら、金はかかるがハウスキーパーでも雇った方がマシだよ。
確かに私は主婦としての能力が足りないことは認めなければいけない。だが、家事をする度にこんな罵倒をされては、自尊心はズタボロである。
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