惰性ブレーキ

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私の食器洗いが甘いとでも言いたいのだろう。これならば仕方ない、私は謝罪をすることにした。 「以後、気をつけます」 「もう気をつけなくていい。昼飯を家で食べた時は使った食器を水につけるだけでいい。それ以上は何もしないでくれるかな?」  食器を洗い終えた夫は、リビングに掃除機をかけはじめた。それから埃の溜まりそうな場所を羽箒で軽く払い、雑巾の水拭きをかけていく。私からすれば年末の大掃除をしているように見えた。 それが終わる頃には夫の出勤時間を迎えていた。 「じゃ、行ってくる」 「いってらっしゃい」  夫が会社に行き、家事をしようとしたのだが…… やることはなくなっていた。私がするべき家事が全て終わっていたのである。これでは何もすることがない。  朝、昼、夕…… 私はリビングでボーっと趣味の編み物や読書に没頭して過ごした。昼食であるが、近所の友人と一緒に小洒落たパスタ屋で済ませた。 その席で夫に対する愚痴を零してみたところ「そのまま甘えて家で食っちゃ寝生活でいいんじゃない? 妻のために家事もしてくれるなんていい旦那じゃない」と、いかにも他人事みたいなアンサーが返ってきた。友人は一つ勘違いをしている、夫は「(わたし)のため」ではなく「自分のため」に家事をしているのだ。 続けて友人は「全部旦那が家事してくれるなら外に働きに出ればいいじゃない」とも言ってきたのだが、私はこの生涯で就職はおろかパートやアルバイトすらもしたことがない。実家が裕福であったせいか小遣いが多く働く必要がなかったからである。こんな私が外に働きに出たところで勤め先に迷惑をかけるだけだ。だから私は外で働く気は微塵もないのであった。  結婚した後に行く買い物も週末に夫と一緒にしか行かない故に私が財布を出すことはない。 一応、夫の口座から引き落とされる私名義のクレジットカードも持たされているが、使う機会は滅多にない。今回のような友人とのランチの割り勘の時に出すぐらいである。
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