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夫は困ったように額をポリポリと掻き出した。
「世間体? 会社でもそうだけどさ、いい歳して結婚してないと『変な目』で見られるじゃない? アラフィフの独身男性の上司なんか『同性愛者』だの『性格破綻者』だのって、同僚や部下たちからボロカス呼ばわりだ。独身女性の上司なんか『お局様』だの『行き遅れ』だのってもっとボロカス呼ばわりだ。インターネット上なんかはSNSで他人との比較の可視化が容易になったおかげか、筆舌に尽くしがたい程にいい歳した未婚者に対してはボロカス呼ばわりだ。既婚か未婚かって、こんな下らない色眼鏡で人を覗いてるのが人間なんだよ」
「はぁ……」
「俺も独身のうちはヒソヒソと陰口を叩かれたよ。さっき言ったアラフィフの独身男性みたいな扱いだった。仕事が出来ても『未婚』ってだけで管理職への昇進も出来なかった。上司からは『君、妻も子供もいないのに部下を持って育てられると思ってんの?』って言われたよ、家族の管理をしたことない奴は部下の管理も出来ないって言いたかったんだろうね。それをひっくり返す程の成果を出すことが出来ない俺が無力なだけなのかもしれないけどな」
「独身の先生だって子供を纏めてますし、それに妻に育児を投げっぱなしって夫もいます! 関係ないかと」
「そういう例もあるって話をしても『未婚者は駄目』って思い込んでる奴が世の中に多い以上は何言っても無駄なんだよ。俺はこういう世の中で嫌々でも生きてるから、迎合するために結婚して、君と夫婦になったんだよ。結婚した途端に管理職のポストを用意されたよ。昇給もしたよ。未婚者から既婚者になった途端にこれだ。本当に下らない世の中だよ、そんな世の中に迎合した俺も下らない奴だけどな」
「なら、夫婦ってなんなのですか?」
「身も蓋もないことを言うなら、偏見の目で見られないためのバリア? 既婚者ってだけで『フツー』に扱ってくれるようになったしね」
「あの、私のことを愛してますか?」
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