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「大丈夫? 具合悪いの?」
どうやって自宅に帰って来たかはわからない。帰宅したままベッドに横たわり、そのまま寝てしまったようで、彼の声で目を覚ました。太陽はすっかり沈んでおり、慣れた夕闇の中で彼が点けた明かりが眩しかった。
彼の顔を認識した瞬間に、受け止められなかった現実が降ってくる。
「ごめん。赤ちゃん、いなくなっちゃった」
そう言い終わると、涙が雨みたいにボタボタと降ってきた。
「どう言うこと?」
息を吸うことも難しい私は、呼吸の合間合間に医者から受けた説明を彼に伝えた。
「流産だって。職場で大量に出血してすぐに病院に行ったんだけどダメだった。もう完全に流れちゃって、私、赤ちゃんトイレで流しちゃったみたい」
自分でしたことが恐ろしくなり、ますます涙が落ちてくる。
「あまり自分を責めるなよ。しょうがないよ」
彼は私の肩を抱き寄せる。
「昨日ちょっと出血があったの。今日は仕事なんて行かずにすぐに病院に行けばよかった」
ベッドサイドからティッシュボックスを手繰り寄せた彼は、私に一枚ティッシュを手渡す。
「多分だけど、結果は変わらなかったと思うよ。もう手遅れだったんだよ。俺も勉強してるけどさ、初期の流産は十五パーセントくらいの確率で、割とよくあることなんだって。ママが原因じゃなくて、遺伝子の組み合わせとか胎児側の原因がほとんどなんだって」
「それは医者にも言われた」
私は彼からの言葉に反発する。
「よくあることって何? ママは悪くないから気にするなって? 赤ちゃんが死んだんだよ?」
言葉で説明できない怒りがあった。私が欲しかった言葉はそんなんじゃない。そんなの全然慰めにならない。
「ちょっと落ち着こう」
彼が私の瞳の奥をまっすぐ捉える。
「なんか他人事みたい」
「そんなことないって」
「自分の子供が死んで、よくあることですからなんて言われて、納得できるわけないじゃん」
誰も悪くないのに、きっと私は誰かを責めたいのだろう。どこにもやり場のない悲しみは怒りとなって彼に向かっていた。こんなのは八つ当たりなんだ。それは何となく自分でも気がついてた。でも止まらなかった。涙も止まらなかった。
彼は仕方がないことだから、次を考えようとか前向きなことを言って私を励まそうとするのだけれど、私はそれがますます気に入らなくて、彼の言うことを否定するばかり。
「なんで流産した今日に次の子のことを考えられるの? 信じられない!」
彼の逃げ場を一つ一つ奪っていき、私は彼を追い詰める。それは私自身の逃げ場も同時に奪っていく行為だった。
「ごめん、ごめんよ。もうどうしたらいいか、俺にはわからないよ」
悲しみと怒りで暴走する私に噛みつかれすぎて疲れてしまった彼は、ついに「今日は帰らない」と言い残して家を出て行った。
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