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サプライズちゃぶ台返し②
入学時から顔見知りだったけど、日中と夜学のスタイルの違いもあってお互いのグループは違っていて、連絡先を知っている程度でほとんど話すことも無かった。陰キャを地で行く俺と、友達だらけの陽キャの彼女では交流を深めるには致命的だった。
関西では大学によっては学年を回生と呼ぶ大学も多い。一年が過ぎ、二回生としての秋の暦、学園祭も過ぎた後のことだ。
いつもは多くの友人に囲まれている彼女が、ただひとり学食のすみっこで佇んでいた。何を食べるでもなく、誰かを待っている気配もない。
思い返せば、度胸のない俺にしては大胆不敵な行動だった。
ホットコーヒーをそばに置いて生意気にも「座っていい」と声をかけて
虚勢を張りながら座った。当然、心臓はばくばくしていた。
「どうしたの?」
着飾る言葉はいらなかった。その言葉を受けて、堰を切るように涙目の彼女は思いの丈をぶつけてくれた。
建築学部らしい模型の設計ができず、完全に気落ちしていたことを。
「向いてないんだ」「辞めたい。家族に申し訳ない」
夕暮れの学生食堂で俯く彼女に、思わず両手で冷たくなった手を握りしめた。感情のままに俺はありったけの励ましの言葉を並べていった。
何を言ったか、自分でもまったく覚えていない。とにかく必死だった。
不器用で、言葉選びのセンスもない。そんな自分ができることを気が付けば
なりふり構わずやっていた。
泣きそうな彼女と図書館に行って文献を借りた。
本屋にも寄ってカーサの建築特集のバックナンバーも携えた。
二人で徹夜して基礎を大事にしたモデルを提出期限ぎりぎりで作り上げた。
こう書くと偉大に見えるけど、実際は一緒にいてコーヒーを差し入れて
見届けるぐらいしか俺に出番はなかった。なんせ専攻が違い過ぎる。
それでも、提出後の彼女は疲れ瞼をこさえながら満面に微笑んでくれた。
役割を終えた俺はそのまま家に帰って床に倒れると次の日の夕方まで寝入ってしまった。
やってしまったと携帯電話を手繰り寄せると、寝ぼけ眼がくっきり開く二通のメールが届いていた。
ひとつはゼミナールから怒りの通知。
もうひとつは、彼女からのメール。
「今度遊びに行こ!マジよ!」
その願いを果たすことなく、今年の二人は冬のクリスマスを迎えた。
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