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「やらかしましたわ………」
なんで、断罪される卒業パーティーの前夜に前世の記憶を思い出しますのー!?
ベッドの上で枕をばったんばったんさせて八つ当たりしてももう遅いのは分かっているのですが、何かに当たらないとやってられませんわ!
散々ヒロインであるターニャ様を公爵令嬢であり王太子殿下の婚約者であるカーラ様達と虐めてしまいましたわ!
侯爵家の令嬢ともあろうものが、扇で叩くだけではなく児戯のような虐めすらしてしまいましたわ!
どうしましょう………。わたくし、明日にはざまぁされて国外追放されて途方に暮れてしまうんですわ。
王太子殿下とカーラ様の婚約破棄の流れでわたくしもルチウス様から婚約破棄されてしまうんですわ…。
ルチウス様………前世の推しでしたのに、もう遅いですわ。やらかしたわたくしより罪のない令嬢の方がルチウス様にはふさわしいのですわ。こんなに好きなのに、明日の地獄の断罪パーティーで別れを告げられてしまうのですわ…。
………仕方がないですわ。今から国外追放に向けて準備しておきましょう。
原作ではパーティー会場からそのまま王家の馬車で国境まで送り出されると書かれておりましたから、明日のドレスと持ち物には換金出来るようなものを用意しておきましょう。そうしましょう。
お父様とお母様への最後の手紙も認めておきましょう。
突然のお別れは寂しいですから、明日は思いっきり甘えてからパーティー会場へ行きましょう。
そうして、出来うる限りの国外追放に向けて準備をしたわたくしは満足して眠りにつきました。
おかしいですわ。
パーティーが始まっていくら待てども断罪イベントがはじまりませんわ。
ルチウス様にドレスや装飾品をいつものように贈られ、しっかりエスコートされて入場した時点でおかしかったのですわ。
原作ではルチウス様からの贈り物もエスコートもなく憤慨しているはずですのに、カーラ様も王太子殿下にエスコートされて楽しそうですわ。
いえ、決して断罪されたかったというわけではなく。
「ルチウス様………」
「なんだい?」
きらめく笑顔に屈しそうになりながらも疑問を口にしますわ。だって、昨日までの皆様とあきらかにおかしいんですもの。
「ルチウス様、ターニャ様のことはよろしいのですか?」
「ターニャ?どこのご令嬢だい?私の知り合いにはいないと思うのだが…」
えっ!!?
「ターニャ様ですわ!わたくし達が虐めてしまったご令嬢…ルチウス様は、そんなわたくしに呆れてターニャ様を庇っておられたではありませんか」
「………すまないが、まったく心当たりがないな。そもそも何故君はそのターニャ嬢を虐めていたのかな?」
ターニャ様の存在がないことになっている…ですって!?えっ、それってなんてホラーですの?
昨日までのわたくしとターニャ様との思い出はすべて幻だというの?
あんなにルチウス様と引き離そうと躍起になっていたことがすべてなかったことに?
ということは、ルチウス様はわたくしのルチウス様のままということですの?
黙ってしまったわたくしにルチウス様が答えを促す。
「それは…ルチウス様がターニャ様と親しくしていてやきもちをやいてしまったのですわ…」
自分で言っておきながら改めて言うととても恥ずかしいですわ。
そもそも、ルチウス様の関心を引き留められなかったわたくしにも非があるというのに。
「そんなかわいいことを言われるととても嬉しいね。でも、存在しないご令嬢だとしても虐めることは良くないよ」
「はい…申し訳ありませんでしたわ、ルチウス様」
素直に謝罪すると髪を撫でられる。
「でも、嫉妬されるというのは結構嬉しいものだね。そのターニャ嬢には少し感謝かな」
「もう、ルチウス様ったら…」
なんて言っていちゃつかせていただいておりますが、完全にターニャ様の存在がなかったことになっていますわ!
どうしましょう。わたくし、長い間そのような夢を見ていたのかしら?
でも、初めて扇で叩いた時は慣れていなくてわたくしも痛かったですわ。
あの感触も夢だというのかしら?
「さて、そろそろ王太子殿下にご挨拶に伺おうか」
「そうですわね」
王太子殿下やカーラ様でしたらターニャ様のことを覚えているかもしれませんわ!
結局、それとなく探りを入れても王太子殿下はターニャ様をご存じなく、カーラ様も微笑むばかりでわたくしには何がなんだか余計に分からなくなりましたわ。
「ほら、王太子殿下もカーラ嬢もターニャ嬢を存じ上げなかっただろう?なにか夢を見たのを引き摺っているんだよ」
そう…なのでしょうか?あんなにも長い夢、本当に夢でしたのでしょうか?
疑問に首を傾げるわたくしにルチウス様は笑って仰いました。
「まぁ、王太子殿下の戯れもたまには楽しいってことさ」
頭にはてなマークを飛ばすわたくしにルチウス様がダンスを申し込みました。
くるくるホールを回りながら、ルチウス様との縁が切れずにホッしながらも、王太子殿下の戯れとはなんのことかしら?と新たな疑問に首を傾げずにはいられません。
ターニャ様は本当に存在しない、幻のヒロインだったのでしょうか?
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