不要品の処分は早めにしましょう

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父が再婚しわたくしに新しい義母と義妹が出来たのは10歳の時。 父が母と結婚する以前からこの平民の女性と恋仲だったことも、この義妹が父の実の娘であることも、母の遺品整理をしていたときに母の日記で知っておりました。 父に婚約以前からの恋人がいたものの、父の実家の事業が上手くいかず縁を伝い我が家へと辿り着き、世間知らずだった母はそんなことを知らぬのをいいことに騙し婚姻しつつも以前からの恋人と切れるどころかわたくしが生まれたあとに子供を設けたことを知ったことへの悲しみと恨みが書かれておりました。 まさか喪が明けて早々に籍を入れるとは思いませんでしたが。 そもそも父は入り婿の身。 現在はわたくしが成人するまでのガタル公爵代理に過ぎないというのに勝手が過ぎますわ。 おまけに義母も義妹も特に何もせずメイドに偉そうに命令したり豪奢なものを買い求めるだけの生活。 優雅さもなくゴテゴテした装飾に彩られたドレスやアクセサリーは嘲笑の的でしかなく、また家内の実情を知っている者達には軽蔑されておりました。 義妹は「ずるい」「ほしい」「お義姉様ばかりひどいわ」の三点が口癖のようで、褒め称えられているとき以外は口を開けばこのように騒ぎ立てます。 わたくしから奪ったドレスは身の丈に合わず、宝石は義妹には似合わない品。 似合ったものを買い求める事が出来るのに、何故わたくしの物を欲しがるのでしょうか? ですが、わたくしも物に執着するタイプではありませんので、義妹がほしいと強請ればなんでも下げ渡しました。 さすがに婚約者がほしいと強請られた時は失笑しましたが、この方も義妹の方が可愛げがあると仰っていたことを存じ上げております。 もちろん、婚約者も義妹に下げ渡しましたわ。 そして迎えた本日はわたくしの成人の日。 新しい門出ですわ。 新しいわたくしに不要品は不必要。 不要品を処分致しましょう。 わたくし一人では心許ないので新しい婚約者と国からの役人にも来ていただきました。 お昼から少し過ぎた時間から急にやって来た役人に父も及び腰です。 「これはこれは役人の方々。一体どうされましたかな?」 「ガタル公爵代理、並びに夫人と娘。長年に渡るガタル公爵家の横領により逮捕させていただきます」 「なんだって!?」 役人達の後方で婚約者に肩を抱かれわたくしは父の一言に失笑してしまいました。 本当に分かってらっしゃらなかったのね。 いいえ、分かっていればやらかしていないはず。本当に馬鹿な方々。 引っ捕らえようとする役人に抵抗し怒鳴り立てる父の元へ婚約者に大丈夫だと微笑んで応えて一歩踏み出しました。 「だって、わたくしの資産で勝手をしたのですから泥棒ではありませんか。泥棒が身内にいることが恥ずかしくて、わたくし社交界に出る度に新しい婚約者様や皆様に慰められて、それだけが心の支えでしたのよ」 「何を言う!何が私の資産だ!ガタル公爵家の資産はガタル公爵の私のものだろう!?あの女の娘が何を偉そうに!」 まったく人の話を聞かない方。 先程役人の方も公爵代理と申し上げていたではありませんか。 「そもそもあなた方は貴族ではありません。平民です」 「そんな馬鹿な!私はガタル公爵だ!」 「婿入りの分際で何を仰っているの?貴方はあくまでガタル公爵家の血を引くわたくしが成人するまでの代理に過ぎませんわ。何を思い上がってらっしゃるのかしら?」 「ぐ………、だが!私の実家は伯爵家だ!貴族ではある!」 「いいえ、お父様。貴方が義母と義妹を連れてきた日に母方の祖父に相談し、祖父から貴方のご実家に圧力をかけて縁を切らせていただきました。ガタル公爵家を、母を侮辱しておいて何もないとでも?」 母の日記を読んだ祖父は怒り狂い、父の実家に相当な圧力をかけたと聞き存じております。 「そんな!そんなこと私は聞いていない!」 「何度もご実家からお手紙が届いていた筈ですが…ああ、お父様はご自身が公爵家に婿入り出来たことにより伯爵家であるご実家を見下しお手紙すらあまり読んでおりませんでしたものね。もしかしたら知らなかったのかもしれませんわ」 本当に愚かな男。 子供のような言い訳を繰り返し、自身の実家すら公爵家という肩書きに惑わされて大切にしないこのような男の血が流れてるかと思うとおぞましいですわ。 「ねぇ…あなた、どういうことなの?」 現状が理解出来ない義母と義妹にも丁寧に説明してあげます。 「あなた方も単なる平民ということですわ。平民と結婚した平民が公爵家で好き勝手したのです。ですが、公爵家を継ぐわたくしが成人したからには代理の父の庇護は要りません。あなた方も平民の身分として相応しい生活にお戻りください」 当家で買い求めた品は置いていっていただきますわ。 悪趣味な品ですが、教会のバザーで売るか宝飾を解いて宝石を一つずつにして売り払いましょうか。 騒ぐ元父と元義母と元義妹は役人が連れていってくださいました。 「お疲れ様。これでようやく一段落ついたね」 「えぇ。これで憂いはひとつ減りましたわ」 婚約者にエスコートされてガゼボでティータイムと致します。 「他に君の心を惑わせることがあるのかい?」 「えぇ。実は婚約者が素敵すぎて早く結婚しないと他の女性に取られないか不安ですの」 わたくしがそう言うと婚約者様は笑って「そんなことは絶対にないけれど、不安ならばこのまま指輪のデザインを決めてしまおうか」と言いました。 「あら。素敵な考えですわ。それから、貴方はわたくしを裏切らないでくださいね」 「もちろんだよ。僕が愛しているのは爵位ではなく君なんだから」 頬にキスされて赤くなるわたくしに婚約者様は余裕の笑みで、そんなところが好きなのですわ、と一人悶えてしまうわたくしでした。
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