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1. その婚活相談所、占いの館でもあり
「ねえ、鳴神結婚相談所って鳴神の身内がやってるの?」
数分もすれば昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴る頃だった。
手持ち無沙汰で机に突っ伏していた俺に話しかける奴がいた。イヤホン越しに聞こえた問いに答えるのが面倒で、寝ていて気づかないことにする。
「鳴神! 三弦!」
「…………何」
これ以上無視したら名前を連呼されそうで、しぶしぶ体を起こしてイヤホンを外した。やっと目が合ったと言わんばかりに、その女……阿部はにこっと口角を上げた。
「あの相性診断やりたいんだけど、いい?」
「相性診断?」
「動画で推してたじゃん」
「………ああ、あれ再生数クソだったのによく見つけたな」
父方の叔母がこじんまりと営んでる結婚相談所が始めた、相性診断の『if*マリッジ』。
遺伝子解析と性格や生活習慣に関する質問項目の答えをAIにぶっこんで、互いの相性や結婚後の生活について診断するという。
『心理テストより正確に、同棲よりお手軽に!』と相談所の名物にしたいようだけど、イマイチ振るってない。まあ普通に胡散臭い。
宣伝動画を作るのを手伝わされたけど、再生数は雀の涙にもならなかった。
「動画見て気になってさー住所見たらこの辺じゃん? しかも鳴神って珍しいし」
「……婚活登録してる人の特典なんだよな」
「一応聞いてみてよ! ね? 楽しみにしてる!」
予鈴が鳴り、「お願いね!」と彼女は席に戻った。
あくびを噛み殺して机の中を探る。
受験生のくせに、相性診断にうつつ抜かせるのが羨ましいような、呆れるような。
あ、あいつ推薦だったからもう大学決まってるのか。妬ましさで一瞬イラつく。
でもまあ動画見てくれたお礼分くらいは動いてやるか。
叔母さんに、今日は事務所に寄るとメッセージを送って、やっと目当ての教科書を探しあてた。
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