1. その婚活相談所、占いの館でもあり

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

1. その婚活相談所、占いの館でもあり

「ねえ、鳴神(なるかみ)結婚相談所って鳴神の身内がやってるの?」  数分もすれば昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴る頃だった。  手持ち無沙汰で机に突っ伏していた俺に話しかける奴がいた。イヤホン越しに聞こえた問いに答えるのが面倒で、寝ていて気づかないことにする。 「鳴神! 三弦(みつる)!」 「…………何」  これ以上無視したら名前を連呼されそうで、しぶしぶ体を起こしてイヤホンを外した。やっと目が合ったと言わんばかりに、その女……阿部はにこっと口角を上げた。   「あの相性診断やりたいんだけど、いい?」 「相性診断?」 「動画で推してたじゃん」 「………ああ、あれ再生数クソだったのによく見つけたな」  父方の叔母がこじんまりと営んでる結婚相談所が始めた、相性診断の『if*マリッジ』。  遺伝子解析と性格や生活習慣に関する質問項目の答えをAIにぶっこんで、互いの相性や結婚後の生活について診断するという。   『心理テストより正確に、同棲よりお手軽に!』と相談所の名物にしたいようだけど、イマイチ振るってない。まあ普通に胡散臭い。  宣伝動画を作るのを手伝わされたけど、再生数は雀の涙にもならなかった。 「動画見て気になってさー住所見たらこの辺じゃん? しかも鳴神って珍しいし」 「……婚活登録してる人の特典なんだよな」 「一応聞いてみてよ! ね? 楽しみにしてる!」  予鈴が鳴り、「お願いね!」と彼女は席に戻った。  あくびを噛み殺して机の中を探る。  受験生のくせに、相性診断にうつつ抜かせるのが羨ましいような、呆れるような。  あ、あいつ推薦だったからもう大学決まってるのか。妬ましさで一瞬イラつく。    でもまあ動画見てくれたお礼分くらいは動いてやるか。  叔母さんに、今日は事務所に寄るとメッセージを送って、やっと目当ての教科書を探しあてた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!