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「パセラ侯爵令嬢!貴女との婚約は破棄させてもらう!」
びしりとこちらを指差しながら婚約者ではない女性の腰を抱き婚約破棄を申し付けるなぞ、不作法の極みでは?と思ったところで思い出した。
ここ、生前やってた乙女ゲームの世界だ。
そして私は悪役令嬢のパセラ。
でもこれ、悪役令嬢ものが流行りすぎて悪役令嬢が主人公のゲームのはずだよね?
つまりは私が主人公。
私を断罪している王子もヒロイン(仮)もモブで、ヒロイン(仮)は王子の側近達にも手を出しているヒドインの筈。
確かこの断罪劇は序幕でここから隣国の王子が助けに来てくれて主人公は家族と共にこの国を見限って隣国に移住して、隣国の学園に通い王子を含むイケメン達と恋愛や冒険を楽しむ物語。
つまりはここからが本番だよね。
今から殿下達はモブなのに意気揚々と主人公に冤罪の断罪して隣国の王子に言い負かされるのか、可哀想…。
「どうした!何故そのような憐れみの目で見てくるのだ!」
「いえ、殿下達がお可哀想で…」
扇で口元を隠しため息混じりに呟けば、周りが騒ぎ出す。
「確かに、殿下達はこれから処断される身…お可哀想なのは確かだ」
意外と良い声が騒ぎに混じって響きましたわ。
「この明らかでお粗末な冤罪でどや顔断罪していてもすぐに論破されて、パセラ侯爵令嬢とは婚約解消になり違約金を殿下の個人資産から支払われ、いや今までの散財から考えるにもう貯蓄はそんなにない筈。強制労働か?王子籍も抹消、良くてそちらの不埒にも腰を抱いているご令嬢の家に婿入り出来るかもしれないが、ご令嬢に兄上が居て家督が継げないとなると単なる穀潰しの平民落ちが妥当…悪くて子が成せぬように処置して北の離宮で一生を過ごされるだろう…。側近達も何故殿下の愚行を窘めるどころか一緒になってやらかして、家での立場は危うくなる筈…。弟や親戚にすげ替え。貴族界隈のパワーバランスも崩れるし、これは大変なことになったぞ…」
長々とノンストップで殿下達の今後を語って聞かせてくださったのは隣国の王子ではありませんでした。
ゲームでも見たことはないモブの男性です。
これはアレでしょうか?
このモブの方も転生者なのでしょうか?
現実を見せつけられて固まる殿下、出番がなくなってしまった隣国の王子、どうしたら良いか分からないわたくしと尚も喋り続けるモブ。
というか喋っているのはモブのみで皆様モブの仰ってることを律儀に静かにお聞きになっておりますわ。
「しかもどこからか断罪をすることを聞き付けていた隣国の王子も来ているらしいし。隣国の王子はパセラ侯爵令嬢に横恋慕してるって噂だし」
あら?噂になっているほどでしたの?
「これで王妃になるべくこの国のことを勉強されてきたパセラ侯爵令嬢に婚約を申し込んだりしたらこの国の秘密を丸ごと持ち去りますよ宣言だもんな。やばいよな」
やばいですわね。
そう言われますととてもやばいですわ。
隣国の王子もわたくしの立場もやばくなりますわ。
どれだけやばいかと申されますと戦争が起きてしまう可能性がある程ですわ。
お花畑脳は殿下達だけではありませんでしたわ…。
隣国のイケメン達とルンルンとか思っている場合ではありませんでしたわ…。
モブの方、どこのどなたか存じ上げませんが、冷静な分析ありがとうございます。
おかげさまで売国奴の汚名を被ることなく隣国の王子からアピールされてもお断りする選択肢一択になりましたわ。
その後もモブの方はこの断罪劇とその後に起こりえることすべてを長々と喋り倒しました。
「………と、思うのですが、パセラ侯爵令嬢はどうお思いになられますか?」
「わたくしの一存ではなんとも申し上げられませんわ。わたくしの婚約は父に一任させていただいておりますので」
お父様に丸投げですわ。
わたくし、悪役令嬢ですのでやりたくないこと、考えたくないことはしませんわ!
それよりも、本当にこのモブの方どなたでしょう?
ほぼすべての周辺国を合わせて王侯貴族の方々は覚えていたと思っておりましたのに、存じ上げませんわ。
それにしても…。
騒然とするパーティー会場を見回してもう一度扇で口元を隠してため息を吐きます。
わたくしはどうすれば良いのでしょう?
その時のわたくしは存じ上げませんでした。
モブだと思っていた方が存在すら知らなかったゲームの隠しキャラで中身は女性の転生者で、これを機に親しくなり親友と呼べる仲になるなんてわたくしは思いもしませんでしたわ。
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