婚約を破棄させていただきましたわ

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校舎は違うものの優秀な平民にも広く門戸が開かれる貴族の学園では最近一つの醜聞で生徒の話題を楽しませているのはご存じ? 侯爵令嬢であるわたくしアイラとその婚約者である伯爵令息スタン様、平民の娘アリア様の三角関係のことですわ。 本当に、人の不幸は蜜の味というのは対岸の火事ならば楽しめるのでしょうね。 今日も婚約者のあまりの言動に苦言を呈せば茶番に巻き込まれる始末。 「アリア様。婚約者のいる男性にそのようになさるべきではありませんわ」 「ひどいです!アイラ様!私達は単なるお友達です!そのような無粋な誤解はおやめください!」 「無粋な誤解、ねぇ…」 どう見てもアリア様の胸をスタン様に押し付け寄り添っているようにしか見えませんが? しかしアリア様に何を申上げても暖簾に腕押し、ご自分の都合の良いように解釈され虐められたと周囲に吹聴するだけ。 このような方々に関わってせっかくのランチタイムの時間を減らすわけにもいきませんわ。 「さようですか。わたくしもお友達をお待たせしていますので、そろそろ参りますわね。ごきげんよう」 侮蔑の目で見ながら去ろうとすると、即座にアリア様がスタン様に恐かったと泣きつき宥められる。 もう潮時かしら。 お友達との楽しいランチタイムを過ごしながら、父に向けての手紙の内容を頭の中で纏めた。 父に手紙が届いてからは早かったですわ。 スタン様の有責で婚約は破棄。 アリア様のご実家が商売していらしたのがうちの領地だったので撤退していただき、アリアさまは学費も払えず退学となりました。 これでようやく平穏に過ごせますわ! 久々に浮かれた気持ちでガゼボにて花々の美しさを愛で友人達とのティータイムを過ごしていると、うるさい蝿が一匹飛び込んできました。 「アイラ!君がそこまで卑劣な人間だとは思わなかったぞ!アリアの家にまで重圧をかけて退学をさせて…君には優しさというものがないのか!?」 護衛を呼ぼうとしてくださったお友達の一人に目配せし、人を呼んでいただきました。 「それはあなたの責任ですわ、スタン様。婚約者にすり寄る女性をいつまでも放置しておく方が恥ですわ」 「なっ、君のそういうところが嫌なんだ!アリアとは友人でなにもない!変な憶測はやめてほしい!」 「そうですか。あくまでも異性の友人だと。最近の異性の友人とはキスまでしますのね。わたくし初めて知りましたわ」 本当に、初めて知った時はあまりのことに気が遠くなりかけましたわ。 まだ人も多い放課後の中庭でのことだったらしく、証人は大勢おりました。 そのような人に見られて喜ぶ露出趣味の方々とは思いもしませんでしたわ。 わたくしの一言でスタン様はなにやら言い訳を始めましたが証言は署名入りで集めておいてあります。 「それに、わたくしはやめてほしいと申しました。それなのにやめてくださらないということはわたくしを軽んじているということ。とても不愉快ですわ。それに、わたくしとあなたの婚約はすでにスタン様の有責で破棄されております。気安く呼び捨てになさらないでくださらない?」 「婚約破棄!?どういうことだ!僕は聞いていないぞ!」 「あら?スタン様のご実家から手紙が送られてきていたはずですが、読まれませんでしたの?」 聞いていないもなにも、この数ヶ月間、結構な数のお手紙をスタン様のご実家からスタン様に届けられているはずですが、読まれませんでしたのねぇ。 スタン様のご両親の様子を見るに、相当なお怒りのはずでしたが。 市井に落とすこともやぶさかではないとかなんとか。 ご実家からのお手紙すら読まない男との婚約を破棄して本当に良かったですわ。 「婿入りの分際で、婿に入る前から愛人を見繕う男なぞ必要ないということですわ」 ようやく友人がいつの間にか出来ていたギャラリーを押し退け護衛を連れてきてくださったので安堵しました。 対峙してみてはいましたが、こちらに非がないとはいえ男性とこのように言い合うのは初めてのことでとても緊張しました。 スタン様は護衛の方に連れていかれつつもこちらを振り向いてはなにやらぶつぶつ呟いておりました。 まぁ、どうでもよろしいですわ。 「皆様、お見苦しいものをお見せしてしまい大変失礼致しました」 男性陣に至ってはどうにかあれば止めてくださろうとしてくださったご様子。 とても立派な心意気ですわ。 スタン様でしたら一番奥で震えていましたわね。 「先程のお話の通りです。ですので、わたくし先日からフリーの身となりました。こんなわたくしでもよろしいという方は父に縁談の申し込みを取り付けてくださいますようお願い致します」 カーテシーをしアピールする。 本当なら、もっときちんと募集したいところですが、こんなに人が集まってくださることは早々にありません。 これで婚約者のいない男性から少しは申し込みがあるはずですわ。 釣り合う年代の高位貴族はほぼ婚約者がいらっしゃるでしょうが、多少年が離れていても下位貴族でも構いません。そちらは父に任せて探しております。 わたくしに誠実であるならば、わたくしには特に希望はありませんわ。 そうですわね、欲を言えば幸せにしてくださる…いえ、一緒に幸せになれる方かしら? ………なんてこともスタン様には少女趣味だななどと笑われたんでしたわ。 人の夢を笑わないこと、これも希望に入れておきましょう。 予想に反し、婚約の申し込みは想像以上に来ましたわ。 正直に申上げて嬉しいですが、ここから吟味するとなると少々面倒ですわね。 ですが、将来の旦那様のことですもの。 手を抜くわけにはいきませんわ! ある程度数を絞ったら事前調査もしなくては。 あぁ、忙しいですわ。 あら?この釣書の方、結構な美男子ですわね。候補に入れておきましょう。 両親と共にああでもない、こうでもないと釣書を見ながら吟味し、未来の旦那様に思いを馳せることがとても楽しいわ。 婚約を破棄して本当に良かったわ。 アリア様とスタン様? アリア様はご実家に連れ戻されたあと散々怒られ勘当され、同じく勘当され市井に落ちてしまわれたスタン様とお二人でしばらく暮らしていたそうですが、貴族ではなくなったスタン様が不良債権過ぎて早々に捨てられたそうですわ。 興味がないから以降は存じ上げませんが、とりあえず生きているんじゃありませんの?
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