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「ここだけのお話でしてよ」
との口上から始まる淑女見習い、学園に通う女生徒達に広まる噂話。
嘘か真か。
分かるものは誰にもいないが、とにかく噂話が楽しいので次々に広まっている。
…訂正しましょう。
噂か真か分かるのは、噂話を広めた張本人であるわたくしだけですわ。
噂話とは規律の厳しいこの学園に通う生徒にとって最大の娯楽。
聞き逃したりはしませんものね。
わたくしが流した噂話はただひとつ。
わたくし、シフォン・ブルーム公爵令嬢が第一王子の婚約者でありながらとある男性に懸想をしているということ。
噂の出所は、最近第一王子と仲の良い庶子の出であるベリー男爵令嬢となっております。
おかげで噂話は第一王子と親しくなりたくシフォン嬢を蹴落としたいベリー男爵令嬢が流した嘘か、事実を知ったベリー男爵令嬢が王子のために流した真かで議論までされている始末ですわ。
噂の真偽を知りたいがためにベリー男爵令嬢はあちらこちらのお茶会にお呼ばれが絶えませんわ。
何も知らないベリー男爵令嬢は答えられず作法もわからず、自分より高位の貴族令嬢にやきもきさせてお茶会を台無しにされて不評を買っているのだとか。
可哀想ですわねぇ。
ですが、マナーの授業を放棄し様々な殿方に媚びては別室で二人きりになるようではマナーも知らずにいても致し方ありませんわよね。
というか、ベリー男爵令嬢は授業を放棄していて進級する気はあるのでしょうか?
まぁ、わたくしには関係のないことですけれど。
わたくしに「私はヒロインなんだから、悪役令嬢には負けない!」と大見得を切ったのですから、この程度の逆境は己で跳ね除けていただきませんと。
噂話がとうとう王子のお耳にも届いてから数日後。
久々の、ベリー男爵令嬢が現れてから久々の二人きりのお茶会が設けられました。
最初は最近のお互いの近況を報告しあっていましたが、やがて王子は意を決したように神妙な表情で訊ねてきました。
「シフォン、君には他に好きな男性がいるらしいが、その噂は本当かい?」
「嫌ですわ、王子までそのようなくだらない噂話に耳を汚されては」
小さく微笑み王子の手を取ると、わたくしは真を告げます。
「わたくしが一生涯愛するのは王子だけですわ。……王子は、そうではないのですか?」
普段は強気で令嬢の鑑と言われるわたくしの告白とほんの少し見せる弱気な態度に王子はわたくしの手を取り直し少し紅潮して返します。
「私も愛しているのはシフォンだけだよ。すまない。噂話に振り回されたみたいだ」
「嬉しいですわ、王子」
にこり、と表情が崩れない程度に微笑めば王子も微笑み返してくださいます。
庶子上がりの屈託のない笑みとは違いますが、これが貴族の笑みですわ。
ベリー男爵令嬢は、あまりのマナーと常識のなさから女生徒からは敬遠され、事実を知った男子生徒からは何故かと問われ授業を抜け出し「あなただけ」の五文字を信じた男子生徒からは裏切られたと嫌悪され、ベリー男爵令嬢は、いつの間にやら学園からいなくなっておりましたわ。
わたくしは、ただ事実をお話ししただけですのに。
わたくし、シフォン・ブルーム公爵令嬢が第一王子の婚約者でありながらとある男性に懸想をしているということ…第一王子を愛していることを。
さて、邪魔な子猫もいなくなりましたし、王妃教育も頑張りましょう。
末長く、王子と共にこの国を守り導かねばなりませんからね。
皆様も噂話にはお気をつけくださいませね。
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