1.わたくしと王子アトリオ様

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1.わたくしと王子アトリオ様

アトリオ様と婚約が決まってしまったことを思い出したのは父からディナーでお話を伺っていた時です。 その時は推せる美青年を探すために明日から街へ出掛けようとウキウキしておりましたの。 ですが、父の一言でわたくしは奈落の底へと落とされてしまったのです。 「ロゼッタがアトリオ様の婚約者になれて一安心だ。これで我がハーベスト侯爵家も安泰だな」 そうでした。わたくしはいずれ王子と婚姻し、アトリオ様が王太子となれば国母となり国を支えなければなりません。 推しを支えている場合ではないのです。 「お父様、やはりアトリオ様の婚約者なんてことロゼッタには荷が重く感じてしまうのです。今からでも辞退出来ないでしょうか?」 わたくしが未来の推しを推すために婚約者としての地位を辞退しようとするとお父様は重々しく首を横に振りました。 「重責なのは分かっている。だが、耐えてくれ、ロゼッタ。この国のためにも、ハーベスト侯爵家のためにも」 だめでしたわ。 このままではわたくしはいずれ現れる推しを推せませんわ。 不貞になってしまいますわ。 そんなの大問題ではありませんの。 夕食後、枕を抱えベッドにごろごろ転がりながら考えておりました。 推しを推しつつアトリオ様の婚約者として過ごすにはどうしたらいいか。 考え、考え、考え抜きました。 そして思い至ったのです。 王子をアイドルにして推せば良いのでは? 幸い、アトリオ様のお顔は大変好みでした。 今はまだ幼いですが、十年後が楽しみです。推せる自信はありますわ。 アトリオ様の側近候補の方々もかなりの美少年でした。 今から育てれば皆様アイドルユニットとして充分な活躍が見込めますわ!! わたくしプロデュースのわたくし好みのアイドルユニット!いい!とてもいいですわ!! こうなれば、推しがいないのならば作ればいい作戦しかありませんわ! 今からアトリオ様を理想の推しに育てれば、わたくしにとっても、わたくしを愛するようにすれば妻とするアトリオ様にとっても良いことですわ! そうと決まればアトリオ様をアイドルにするべく活動あるのみですわ! アイドル活動は一日にしてならず!ですわ! 顔合わせの茶会から3日後、その日はやって来ましたわ。 幼い二人の改めての顔合わせの茶会ですわ。 アトリオ様をアイドルに勧誘する第一歩の日ですの。 アトリオ様はよくよく見れば本当に美しく、現時点でも同年代ということもあり推せると思いました。 所作も美しく、言葉の端々からはわたくしを気遣う心配りに溢れており、わたくしは内心「推しが尊い」と涙しておりました。 ええ、ええ。わたくしは既にアトリオ様推しになってしまいました。 あまりの尊さに胸を押さえアトリオ様に告げてしまいます。 「アトリオ様、わたくし死んでしまうかもしれませんわ」 「ええっ!?なぜですか!?ロゼッタ嬢、どこかお具合が悪いのでしょうか?顔色も少々赤いようですし、やはり医師を呼んで…」 アトリオ様のお言葉を遮り、わたくしはそのお手を取り懇願致しました。 「アトリオ様が歌って踊ってわたくしにファンサしてくださったら生きていけますわ」 ちょっと婚約者が何を言っているかわからない、とアトリオ様は思考を停止したようでしたが、そこは伊達に王子をしていないようで、冷静に訊ねてきます。 「つまり、君のためだけに歌いダンスをし愛を囁けばいいんだね?」 「違いますわ。アトリオ様がステージに立ち歌って踊ってファンサしてくださいませ」 「ごめん、ちょっと何を言っているか分からないよ、ロゼッタ嬢。そもそも何故僕が歌って踊ってファンサ?とやらをいきなりしなければいけないんだい?」 「そうすればこのロゼッタの寿命が延びるのです。推し、それは生命の活力ですわ!」 アトリオ様が本当に医師を呼ぶべきか考えていたことも知らずわたくしははアトリオ様に力強く宣言致しました。 「アトリオ様、アイドルになりましょう」 その時のロゼッタ嬢は目が座っていた、とアトリオ様が語っていたことはわたくしの存ぜぬことでした。
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