ミューズ

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 僕の妻が大地と同化してから、富士山は僕と妻のためだけの逢瀬の場所となった。  ほんの数年前までは、いつも混んでいる山だった。山頂まで登山客が列を成しているほどの盛況ぶりだったそうだ。  その頃に登ったことは一度もない。  僕は僕の妻が隣にいなくなって初めて、彼女が飲み込まれたこの山で過ごすようになった。  今では新年のご来光を迎えるという瞬間にあっても、僕の他には誰もいない。  地上を救った彼女とその夫である僕のために、ここは僕らのための神域となった。  今日も僕は一人きりで山に立ち、妻が捧げられたかつての噴火口を眺める。  ぼぉぉぉぉ、と船が汽笛を鳴らすような音が、新しい日の光を纏い始める大地に響き渡った。
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