5人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
僕の妻が大地と同化してから、富士山は僕と妻のためだけの逢瀬の場所となった。
ほんの数年前までは、いつも混んでいる山だった。山頂まで登山客が列を成しているほどの盛況ぶりだったそうだ。
その頃に登ったことは一度もない。
僕は僕の妻が隣にいなくなって初めて、彼女が飲み込まれたこの山で過ごすようになった。
今では新年のご来光を迎えるという瞬間にあっても、僕の他には誰もいない。
地上を救った彼女とその夫である僕のために、ここは僕らのための神域となった。
今日も僕は一人きりで山に立ち、妻が捧げられたかつての噴火口を眺める。
ぼぉぉぉぉ、と船が汽笛を鳴らすような音が、新しい日の光を纏い始める大地に響き渡った。
最初のコメントを投稿しよう!