13.メイドに私を預けるのが嫌なら、自分で着替えます。

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13.メイドに私を預けるのが嫌なら、自分で着替えます。

「レオナルド様、私はあなたと一緒にいます。私は聖女ではありません」  私は自分の前に跪いて愛を乞うレオナルドを拒絶できなかった。    泣いて私に愛を乞うレオナルドに、浮気しては私に縋ったタケルを重ねていた。  私はタケルの数えきれない浮気を、泣きながら縋られる度に許していた。 (ミーナとはどうなったの? マケーリ侯爵家の財産が惜しくて私にしがみついている?)    彼を疑う心ばかりだけれど、多くの人が見ている前で彼に恥をかかせたくはなかった。 「聖女ではないって⋯⋯リリアナ嬢、君は何を言って⋯⋯」  私を抱きしめている力をそっと緩めたアッサム王子が困惑している。 「アッサム王子殿下⋯⋯お願いです。見逃してください。私は聖女の力なんてない事にしてください」  アッサム王子の耳元でそっと囁くが、じっと見つめてくるだけで返事が返ってこない。 「えっ? 聖女様ですよね。だって俺は聖女の力である治癒の魔力を感じましたし、赤子だって⋯⋯」  先ほどの妊婦の夫が戸惑ったように問いただしてくる。  確かに自分で聖女と名乗り、聖女の力である治癒の魔力を使ってしまった。 「あの、私は⋯⋯」  私はアッサム王子の緩い拘束から逃れ、跪くレオナルド様を立たせた。  瞬間、レオナルドは私を倒れ込むように抱きしめてくる。 「リリアナ⋯⋯本当に一緒にいてくれるの? 挽回する⋯⋯絶対に僕を選んでよかったと思わせて見せるから⋯⋯」  彼の言葉はタケルが浮気の後、私と別れたくないと駄々を捏ねた言葉とそっくりだ。 (本当に私は彼を受け入れるの? でも、前世で彼の存在には沢山励まされた⋯⋯)  前世で、タケルの浮気に苦しんだり、人間関係で悩んだ時いつも助けてくれたのはレオナルドの存在だった。  一途にたった1人を思う彼のブレなさに励まされていた。   「リリアナ・マケーリ侯爵令嬢! この度は私と私の子をお救い頂きありがとうございます。私は聖女様でも好きな方と一緒にいる権利はあると考えます! ここであなた様のお力を見たことは絶対に誰にも言いません!」  突然、先ほどの妊婦が赤子に頬擦りしながら私に告げてくる。  その言葉に周囲にいた人も同意しだす。  彼らには私が聖女の力が目覚めた為に、レオナルドと引き離されるように見えるのだろう。  ふと、私はアッサム王子が今の状況をどう思っているのかが気になった。  私がアッサム王子を見つめると彼は切なそうに見つめ返してきた。 「リリアナ嬢⋯⋯君が本当にストリア公爵を好きなら、俺は君の願う通りにするよ。でも、少しでも違うと思っているなら直ぐにでも王宮に来てくれ」  アッサム王子は私に近づいて、頬撫でると王家の馬車に乗って去っていった。 (せっかく迎えにきてくれたのに、酷い事をしてしまったかも⋯⋯) 「レオナルド様、馬車に戻りましょう」  私はまだ潤んだ瞳で見つめてくるレオナルド様の手を取って馬車に戻った。  馬車に乗り込む前、私の意向を汲んで口をつぐんでくれると言ってくれた方々に一礼をした。  馬車に乗るなり、先程とは違いレオナルドが向かいではなく隣に座ってくる。  私の唇を親指でなぞり、今にもキスしようとしてくるので思わず避けてしまった。 「レオナルド様⋯⋯正直に言いますとあなたの全ての言葉は嘘くさく感じてしまってます。でも、私があなたのことを好きだったのも嘘じゃないんです⋯⋯」 「好きだったって⋯⋯君が僕を好きだと言ってくれたのは、ついこないだなのに⋯⋯嘘くさいって酷いこと言うんだな」 「建前より、私の本音を聞きたいのではないですか?」  私の言葉の返事のように、レオナルド様が私をそっと抱きしめてきた。  彼は私がずっと好きだった人で、こうやって抱きしめられるミーナを羨んでいた。 「ミーナ様の事はどうなされるのですか?」 「もう、別れたよ⋯⋯今まで苦しめて申し訳なかった⋯⋯」  余計な事を聞くんじゃなかったと思った。  彼からの返事は私が前世で散々聞いてきた浮気男の常套句だった。 (一途な男だから好きだったのに⋯⋯) 「もう、良いです。それよりも、今日は舞踏会は欠席しましょう。私、アッサム王子殿下としか踊れないんです」 「えっ? それはどう言う意味?」  私の言葉に傷ついたような顔をして問い出す彼に私は何も答えなかった。  彼の肩に寄り添って目を瞑る。  アッサム王子はミーナと恋に落ちる予定だったが、どうなったのだろう。  もし、私がこのままレオナルドの側にいたら、彼はミーナを奪還しに王家へ反旗を翻したりしないかもしれない。  それならば、彼が死ぬ事はないから、私の選択はきっと間違っていないはずだ。  馬車の揺れが程よく心地よくて、私はそのまま深い眠りについてしまった。  ♢♢♢ 「おはよ。気持ちよさそうに寝てたね」 「ちょっと、どういう事ですか?」  私は馬車で眠りについたはずなのに、ベッドでレオナルド様と横になっていた。   「大丈夫、君の同意がないのだから何もしてないよ」  レオナルド様が当たり前の事をドヤ顔で言っていて引いてしまった。  馬車で私が眠る前は気まずいムードだったはずだが、今はリラックスした雰囲気になっている。  よく見ると私はレースが3段重ねのスケスケのネグリジェーを着ている。 (えっ? ちょっと寝巻きのセレクトがエロ過ぎ!) 「着替えは、その⋯⋯メイドに頼んだのですよね⋯⋯」 「僕が着替えさせたよ。もう、誰にもリリアナに触れさせたくないんだ」  衝撃的過ぎる。  七海と違ってリリアナは腹も出てないナイスバディーだが、裸を見られるのは流石に恥ずかしい。 「メイドに私を預けるのが嫌なら、自分で着替えます」 「ふふっ、恥ずかしがってるの? リリアナって可愛いところあるんだね」  レオナルド様は何を言っているのだろうか。  23歳のイケメンに裸を見られて恥ずかしくない訳がない。 「あーもう、恥ずかしいです! 18歳の美女だったことだけが救いです⋯⋯」  30歳の手入れする暇もなく粉をふいた体ではなく、手入れの行き届いた若い体だから良かったと自分を慰めるしかない。 「ふふっ、リリアナは面白いな。君は綺麗な目をしているだけでなく、体も透き通るように白い美しい体だった」  笑顔で寝ている間に裸を見たことを暴露した上に、感想を伝えてくるレオナルド様は私の思っていた人ではなさそうだ。  私は小説から彼を一途で純粋な男だと思っていたが、美しい見た目に隠された正体は変態な気がしてきた。 「これからは、自分で着替えます!」 「ダメだよ。僕はリリアナの為に何でもやりたいんだ。着替えも、入浴の手伝いも、眠れない夜の手伝いも僕がしてあげる」  曇りのない空色の瞳で私を見つめながら、とろけるような甘い声で伝えられる。  薄いネグリジェ越しに体を撫でられてゾクゾクしてくる。 (触り方がエロい! こいつ本当に23歳か? しかも眠れない夜の手伝いって何!) 「全て不要です。私、家に帰ります。貴族令嬢のマナーの勉強をしたいので⋯⋯」  これは偽りざる本音だ。  私はこの世界については小説を通して知っている。  しかし、私には貴族令嬢の礼法が身についていない。  食事や歩き方は気をつければ何とかなりそうだが、ダンスが分からない。 (社交ダンスを習っておけばよかった⋯⋯) 「リリアナは完璧な貴族令嬢だと思うけれど向上心が高いんだね。君は今日からストリア公爵邸で花嫁修行をするんだよ。だから何も心配しないでここにいれば大丈夫」  私の心配をよそにレオナルド様は余裕の笑みを浮かべている。  この時の私は彼の変化に戸惑いつつも、ずっと好きだった人と一緒にいられる事をどこか嬉しく思っていた。  小説で私の知っている彼からは想像できないような溺愛を超えた執着を私は受けることになる。  
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