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14.好きだけど⋯⋯信用できない⋯⋯。
あれから1週間の時が経った。
婚約者という仲だから敬語はやめてほしいと言われ、名前も呼び捨てに変えた。
この1週間、家庭教師とメイドとレオナルドにしか会っていない。
ダンスのレッスンが終わり、窓の外を見るとレオナルドが第1騎士団の剣の訓練をしているのが見えた。
太陽光が彼の銀髪と降り積もった雪に反射し、キラキラしていて美しい。
彼は遠くからでも私の視線をキャッチしたのか、振り向いて輝くような笑顔で手を振ってくれる。
私は笑顔で手を振りかえした。
レオナルドは23歳と若いながらに、カサンデル王国の第1騎士団の団長をしていた。
ストリア公爵家が力を持っているのは、王国随一の武力を持つ第1騎士団が実質公爵家のものだからだ。
だからこそ、王家はストリア公爵家に常に気を遣っている。
マケーリ侯爵家は財力で成り上がってきた家で、騎士団を持っていない。
リリアナの父、マケーリ侯爵家の狙いの1つは名門貴族の証とも言える強い騎士団を持つことだ。
実際に1年後には、第1騎士団の優秀な人間をほとんど引き抜きマケーリ侯爵家は強い騎士団を持つことになる。
それにより、マケーリ侯爵家は経済面だけでなく武力により、政治的影響力を持つようになってくる。
それゆえ、小説の中でレオナルドが王家に反旗を翻そうとした時、彼について来ると思われた第1騎士団は人材不足だった。
「リリアナ、授業が終わったんだね。お疲れ様」
窓際に佇み考え込んでいたら、いつの間にか後ろからレオナルドに抱きしめられていた。
彼の高めの体温を服越しにも感じる。
「レオナルドも、もう剣術の練習は終わり?」
私の質問にゆっくりうなづきながら、首元に彼が顔を埋めてくる。
(匂いを嗅がれている気がする⋯⋯やはり、イケメンだけれど変態だわ)
「レオナルド! 今日はプレゼントがあるの」
そっと彼の拘束を解いて囁くと、彼が期待の表情を向けてきた。
私は、聖女の力である治癒の魔力を込めながら編んだミサンガをそっと彼の腕に結ぶ。
小説では、ミーナは人にしか聖女の力を使っていなかった。
しかし、試しに物に治癒の魔力を一定時間込めると、その力が定着することが分かったのだ。
忙しくしていることに前世から慣れているせいか、どうにもボーッと時を過ごすことが苦手だ。
せっかくならば聖女の力を利用して、レオナルドの死亡を回避する何か良い作戦はないかを色々考えた。
そんな中成功したのが、回復アイテムを作り出すことだった。
第1騎士団は普段から激しい訓練をしていて、怪我をする騎士が多いように見えた。
少しでも彼らの役に立てればと思い、私は時間を作ってはミサンガを編み続けた。
聖女の力を使うと体力を相当消耗するようで、フラフラになりながらも何とか作り上げた63本のミサンガだ。
「これは、リリアナの手作り? 一生大事にするよ」
レオナルドは愛おしそうに手首に巻かれたミサンガに口づけた。
すると柔らかい光に彼が包まれるのが見えた。
「体の疲れが抜けてく⋯⋯これは、まさか⋯⋯」
「聖女の力は物に込めることができるようなの。第1騎士団の他の方の分も使ってあるわ。恐らく7回くらい使うと切れるかと思うけれど⋯⋯」
私は引き出しを開けて、隙間時間に作っていた残りの62本の赤と緑の糸で編んだミサンガを見せる。
(このミサンガを受け取れるのは、第1騎士団だけだという事にすれば引き抜きを防げるかも⋯⋯)
レオナルドが喜んでくれると思ってした事なのに、彼は微妙な顔をしてミサンガを見つめていた。
「あの⋯⋯早速、ご挨拶も兼ねて第1騎士団の方々に配ってきても良いかしら」
私がミサンガを入れた箱を持って、部屋を出ようとした所で再び後ろから抱きしめられた。
「ダメだ⋯⋯他の男に君を見せたくない。それに、僕以外の男にも同じものをプレゼントする予定だったなんて⋯⋯」
私はこの事態を予想していた。
レオは明らかに私を他の人間に極力合わせないようにしている。
ふと、私はここでレオに囲われたまま一生過ごすのではないかと怖くなる時もあった。
(赤と緑の糸で編んだのは、私がここにいるって外の人に知って欲しいから⋯⋯)
ここまで強い独占欲を向けられた事がなくて、私は戸惑っていた。
困惑しながらも、少し嬉しいと思う気持ちがあって複雑だ。
「騎士団を強化できるでしょ。遠征中とか攻撃を受けても、すぐに治療は受けられないじゃない。皆のお守り代わりになると思って頑張って作ったのに⋯⋯」
「君に聖女の力がある事が周りにバレたらと思うと⋯⋯」
レオが私を抱きしめる力を強める。
確かに、私が聖女の力を持っていると分かったら王宮に連れてかれる。
レオナルドは本当にミーナとは別れたようだった。
彼女も聖女の力に目覚めたかどうかが私は気になっていた。
ここ1週間、ミーナは姿も見せないし、彼がこの1週間私にずっと愛を語り続けているから彼女の事も聞き辛くなってしまった。
「ストリア公爵家の研究により開発された回復アイテムだとでも言って渡せばいいじゃない。きっと、役に立てると思うのよ」
「じゃあ、僕から他の騎士たちには渡すよ。リリアナ⋯⋯僕の安全を考えてくれて嬉しい。僕のことを好きになってくれてるんだね」
後ろから抱きしめられているので、彼の表情が見えないが声が震えている。
もしかしたら、私が大好きだと言った後に、拒絶するようなことをすぐ言ったから混乱しているのかもしれない。
私は最初からレオナルドが好きで、ずっと彼が好きだった。
ただ、本物のリリアナの想いを知って彼に対する見方が変わってしまった。
(好きだけど⋯⋯信用できない⋯⋯)
1週間前なら「信用できない」という言葉を、ストレートに彼に伝えていたと思う。
しかし、あまりに彼が熱心に真剣に私に向き合い愛を伝え続けているので、彼を傷つけるだろう言葉は飲み込むようになった。
「私は、ずっとレオナルドの事が好きだよ。あなたの気持ちを疑ってしまう事があるけれど、好きって気持ちはずっとあったと思う」
振り向いて彼に思いを伝えると、彼の顔がすごく近くにあって驚いてしまった。
彼がそっと親指で私の唇をなぞってくる。
(目を瞑った方が良いよね⋯⋯)
私がそっと目を瞑ると、想像以上にディープなキスをされた。
(これまた、エロいキスを⋯⋯本当に23歳か? いや、若いからこそなのか?)
小説ではアッサム王子に比べ、レオナルドは硬派で純情のように描かれていたと記憶している。
でも、私の目の前にいる彼は想像していた彼とは違っていた。
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