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19.暴力に訴えるなんて、レオは会話もできないの?
「ストリア公爵、ちゃんと話し合いの時間を先に取ってくれよ。俺は君からリリアナ嬢を取り上げようなんて思ってないんだから」
先程、私にしがみつき愛の告白をしてきたアッサム王子は、スッと立ち上がり私の手を取りレオの方に行くように促した。
アッサム王子の手が微かに震えていて彼が気になってしまうが、私はなぜか彼の表情を見れずレオから目を逸らせなかった。
「そうでしたか⋯⋯失礼致しましたa。それでしたら、レオナルド・ストリア及び第1騎士団は王家に忠誠を誓わせて頂きます」
レオは膝をつき、剣を床に立てながら厳かに言った。
「リリアナ嬢、君は自分の気持ちに従えば良い。君がストリア公爵を好きで、王家に嫁ぎたくない気持ちを尊重するよ。俺は君の恋を応援する」
後ろから聞こえるアッサム王子の言葉が少し震えている。
(彼は本当に私が好きで、私の為に私を諦めると言っている⋯⋯)
「では、リリィは連れて行きます。この度の襲撃で王家が被った損害はストリア公爵家が持ちますので⋯⋯」
レオが立ちあがろうとした時、私はこの上ない怒りを彼に感じた。
ストリア公爵家は武力では王家を凌ぐ程の力を持っている上に、マケーリ侯爵家の財力も手に入れている。
カサンデル王家や他の貴族が無視できない財力と権力を持っているから、このような強引な手段に出られるのだ。
(それで、どれだけの犠牲が出たと思ってるのよ!)
パシン!
私は気がつくと、立ちあがろうとしたレオの右頬を思いっきり引っ叩いていた。
「痛い? 斬られた騎士はもっと痛かったのよ! 暴力に訴えるなんて、レオは会話もできないの? もし、誰か1人でも死んでたら許さないから。ここにいる騎士を全員治療するまではレオとは一緒に行かないわ」
私の言葉にレオが驚いたように呆けて、叩かれた右頬を手でおさえている。
私はその手の上から手を重ねて、聖女の力を使い治癒の魔力を流した。
「傷ついた騎士の治療に行って参ります」
私はそう言い残すと、部屋を出て倒れた騎士を1人1人治療して回り始めた。
思った以上に王城の騎士たちは多かった。
(ほとんどはレオがやったんだろうな⋯⋯誰も殺してないよね⋯⋯)
心が不安に囚われるのを感じた。
私が欲しい為にレオが人を殺した何て事はあって良い訳がない。
私はストリア公爵邸の窓からよく第1騎士団の練習を見ていた。
レオの剣術は素晴らしく、1人で10人分くらいの武力がありそうだった。
実践訓練でレオと対戦し怪我をした相手を治療してあげたかったけれど、他の男と会うのは禁じられると思った。
そういった理由もあり、治癒の力を持ったミサンガを渡すようにしたのだ。
ミサンガを渡すようになってから、3日に1回は新しいミサンガをレオを通して渡すようにした。
それ程、壮絶な訓練を第1騎士団は普段からしている。
(護衛が中心の王城の騎士が勝てる訳ないわ⋯⋯)
階段を降りたところの騎士を治療したところで目眩がする。
ふと、後ろを支えられたと思ったらカエサルがいた。
「リリアナ様、無理をなさらないで下さい。聖女の力は使い過ぎると失神するようです」
彼が憧れてた作家のシーザーだったと言う事が未だに信じきれない。
それでも、七海の世界を知っている人がいるというだけで私は心強い。
「カエサル⋯⋯もしかして、あなたも聖女像に触れれば聖女の力を得られるんじゃない?」
私は聖女の力を持つ人間が私1人では、ここにいる手負いの騎士を全員助けられる自信がなくなってきた。
リリアナが自分を犠牲にしてまで世界を助けようとする崇高な精神を持った人物なら、カエサルも同じだ。
「もしかして、俺の事、女だと思ってましたか? 実は男です。今、2人の男がリリアナ様をめぐって上の部屋で揉めていますがどうしましょうか⋯⋯」
カエサルは騎士らしいガッチリとした体をしている。
(どう見ても男でしょ⋯⋯聖女の力は女じゃないと得られないのか⋯⋯)
「揉める? 私はレオについて行くと言ったわよ。それに今、国の一大事なのに恋だの愛だの言っている場合じゃないでしょ。レオにも魔女の話をしなきゃ⋯⋯」
「ストリア公爵殿下に信じてもらえる自信がありません⋯⋯」
「確かに⋯⋯アッサム王子が信じている方が不思議よね。カエサルは今度こそ私の側にいてね。私は私の世界であなたの作品が大好きだったのよ」
私はこの半年カエサルがいなくて、とても不安だった。
彼は振る舞い、言動、視線で最初から私の味方だと感じられる唯一の相手だ。
カエサルはいつから私が本物のリリアナではないと気がついたのだろうか。
2つの世界を知っている唯一の相手だからか、私は彼をとても頼りにしていた。
「はい、私もリリアナ様のお側に居たいです。とりあえず、今はお2人を仲裁してきます」
いつも、あまり表情を変えないカエサルがうっすら笑ったかと思うと、彼は階段を上がってレオたちの元に戻ったようだった。
「リリアナ様、副団長のエッセン・リッテと申します。何か手伝える事はございませんか?」
青色の髪に青い瞳をした白い軍服をきた騎士が駆け寄って来た。
彼はレオの側近とも言える男で、なかなか腕もたつ。
「直接、挨拶するのは初めてね。はじめまして、リッテ卿。その腕のミサンガを傷を負った騎士たちに触れるよう促してくれる? 他の第1騎士団の方にも方にもご協力して貰えるよう伝えて」
「もしかして、こちらの治癒能力のあるブレスレットはリリアナ様の手作りですか?」
私は、頷こうとした拍子に前に倒れ込みそうになった。
後ろから腰を誰かに抱きしめられ振り向くと、ルドルフ王子が私を見つめていた。
「おい! 大丈夫か? 昨晩も聖女の力を使い過ぎて倒れていたじゃないか」
ルドルフ王子の言葉に周りの騎士たちが「聖女」という言葉に反応する。
昨日のパーティーに参加していた人間は私が聖女だと知っていたようだが、まだ知らない人間もいたようだ。
「大丈夫です。お支え頂きありがとうございます。あと、城内の人間の治癒は終わったので、城門まで他に怪我人がいないか見て参ります」
「無理をするなと言っても、君は無理をしそうだな。肩を貸すから、腕を回せ。先程から足元が覚束ないようだ」
黒髪から覗く赤い瞳がアッサム王子にとても似ていた。
私は恐れを多いが、彼の好意に甘えさせて貰う事にした。
城を出ると城門に2人程倒れているのが見え、途中6人程倒れている。
ここまで、第1騎士団の負傷者が1人もいない。
屈強なだけでなく、治癒能力のあるミサンガを持った事で格段の力を持つ騎士団になってしまったようだ。
「あと、8人⋯⋯」
足が生まれたての子鹿のようにガクガクする。
ルドルフ王子が支えてくれなければ、もう歩くこともままならなかっただろう。
「リリアナ嬢、噂とは全然違う人物なんだな。聖女は伝説のもので、本当に存在するとは思わなかった。君みたいな人じゃないと得られない力なら、今まで誰も聖女の力を得られない訳だ⋯⋯」
ルドルフ王子が私に笑いかけながらも、ふと悲しそうな顔をしたのが気になった。
私が手前にいた騎士の治療を膝をついて始めると、ルドルフ王子も同じように膝をつき私を支えてくれた」
「君も、兄上に毒を盛ったのは僕だと思ってるんだろ? どうして、兄弟で争わなければいけないんだろうな⋯⋯」
「私はルドルフ王子が毒を盛ったとは思ってませんよ。それにアッサム王子は私に聖女の力を使わせる為に毒入りと分かっていて、ワインを飲んだようです」
私の言葉に驚いたように彼は目を丸くした。
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