だと思っていた

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 日比谷は隣に立っていた隣人を見ると、隣人が「何してんのよ!」と日比谷の背中を叩いた。何もできなかった日比谷を睨んでいる。その睨みには楽しいことを期待していたのが裏切られたことに対する怒りもあるのだろう。でもそんなことよりも、日比谷には奥さんが残したメッセージが理解できなかった。 「あの、つかの事をお聞きしますが、こちらの旦那さんってどんな方ですか?」 「え?」  何を言っているんだ、コイツ。そんな目をして隣人が不審そうな顔をする。先程まで喋っていたじゃないか、と。 「どんなって、あんたさっきまで喋ってたじゃないの」 「筋肉質でワイルドな方ですか?」 「え?」  隣人が驚いたように目を丸くした。 「そんな訳ないじゃない! ここの旦那さんはメガネかけて、ほっそくて、いかにも冴えない感じの人よ。!」  日比谷はドアを見た。しんと静まっているドアの奥を想像する。じゃあ日比谷が今まで喋っていたあの男は誰なんだ。旦那だと思っていた人は。  これは日比谷が想定していたより、だいぶややこしい事件かもしれない。
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