画面の向こうとラブレター

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「その当時、あたしの友達だった作家さんたちはみんなBランク以下だったからさ。……もし青猫さんがきっぱり注意してくれなかったら、いつまでもその作家さんはあたしに絡んできたかもしれない。嫌がらせしてきたかもしれない。そうでなくても、あたしが本当に盗作したって周りに思われてたかもしれない。……本当に嬉しくて、あの時はちょっと泣けた」  ははは、と立花は頭を掻きながら言う。 「それがきっかけで、いろいろお話するようになって。小説のアドバイスとか、人との付き合い方とか教えて貰ったよ。あたしにとってはさ、作家としての大先輩みたいな人なんだ。同時に……間違ったことを間違ってるって、ちゃんと言えるのはすげーかっこいいって思ってるんだ。青猫さんがそうやって助けたの、あたしだけじゃないって知ってるから」 「だから、好きになっちゃった?」 「まあ、そんなかんじ?そのあとツニッターでも繋がって、プライベートな愚痴とかも聞いてもらったし、アドバイスも乗って貰ったというか。あ、宿題ちょっと手伝ってもらったこともあったっけな。英単語覚えるコツ教えてもらったりとか。頭良い人なんだよ、マジで」  彼のことを話す彼女は、とても可愛らしかった。思い出すだけで、明るい気持ちになれる相手。そんな相手に出会えたことは、間違いなく彼女にとって幸せなことだったのだろう。  例えその相手が、まだ画面の向こうの存在であったとしても。 「“自分の正しさを信じるのなら、どんなに相手に罵声を吐かれても同じ土俵に上がってはいけない。毅然と背筋を伸ばして佇む紳士であり続けなさい。言葉の魔力を知る作家ならば尚更に”。……青猫さんが言ってた、好きな言葉なんだ。あたしも、そんな風に言える人間になりたい。そして……そんな青猫さんに、一目だけでも会いたいんだ。向こうはあたしのことなんて、ネッ友の一人としか思ってないだろうけどさ」  本気だ、というのは十分に伝わってきた。相手が実はものすごく不細工かもしれない、年齢や身分、性別さえも詐称しているかもしれない――それくらいのこと、彼女も承知の上だろう。  それでも好きだ、なんて思うのは。彼女が、青猫という人物の言動や人となり、つまり中身に惚れ込んだからに他ならないわけで。 「……直接会って話をしたいっていうのを、どうやって伝えればいいのかわかんないから助けてください。……そういう相談でOK?」
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