キスをして

2/3
35人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 僕達は大学が別々になったり、喧嘩する日もあったり、会える日が月に一回になる事も多くなったけど、別れ話になることはなかった。  社会人になって自立できるようになると、どちらからともなく「一緒に暮らそうか」という話を持ちかけた。  初めての同棲。二人でマンションに赴き部屋のドアを開けた瞬間、これからの生活を祝うようにキスを交わした。  二人の生活が始まると、お互いの心と体を案ずるようになった。この時『愛』を知った。  『恋』は自分が焦がれるもの、『愛』は相手に与えるものだということに気づいた。  いい大人になってから、初めて『恋愛』という言葉の本当の意味を理解した。  そのうちキスは習慣的なものになっていった。 「おはよう」のキス。 「いってらっしゃい」のキス。 「おやすみ」のキス。  それは『恋愛』を確かめ合うための儀式だったのかもしれない。  そこから当たり前のように結婚をした。正直結婚式の時は準備が慌ただしく、どんなキスをしたのか覚えていない。  まもなくして子供が生まれ、僕達の愛は子供に向けられるようになった。  子供が大きくなると、恥ずかしくてキスなどできなくなっていた。  『恋』はなくなり『愛』だけが残った。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!