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そうなのだ、この達彦と言う、大波は、千波の就職や結婚に
大きな妨げになる、自分は、その防波堤にならねばと、思っていた。
そこで、恵奈は、隣町の後家さんの家に行き
「達彦は、私と結婚する事になりました、ですから、返して下さい」
と、言った「何で、そんな事になるんだ、俺の知らない所で
勝手な事を決めるんじゃねぇっ」そう喚く達彦に
「言いたい事が有るなら、島に帰って亀婆に言いな」恵奈は、構わず
ぐいぐい手を引っ張って、港まで連れて行きながら
「達、お前には、選択権も拒否権も無いんだぞ」と、言った。
「、、、、」達彦は、もう何も言わず、黙って船に乗り込んだ。
島に帰った達彦は「俺は、こんな奴を、嫁にはしねぇ」と
抵抗したが、亀婆の涙ながらの説得に「仕方ねぇな~」と、答えた。
その夜、話しを知った千波は「何で、あんな奴と結婚するのよっ
辞めてよっ」と、恵奈に食って掛かる。
「嫌な事だけど、これからの事を思って、決めたんだよ。
お前に、相談しなかったのは、謝るよ」恵奈はそう言ったが
「私は、絶対反対だからね」と言った後、千波は
「お願い、私の頼みを聞いて、お願い」と、恵奈に縋った。
「だけどね~もう、本人も、その気になってくれたし」
千波には、反対されるだろうとは、思っていたが
それも、一刻の事だ、なんといっても、これは千波の為だと、恵奈は思う。
翌日、学校が休みの千波は、家に残り、後家さんに、話しを付けると言う
達彦を船に乗せ、本郷へ行く。
「俺たちの事、千波は、良いと言ったのか?」達彦が、突然聞いて来る。
「良いという訳ないだろ、何であんな奴と結婚するのかって、怒ってたよ」「そうか、怒っていたか」達彦は、唇の端を、ちょっと歪めた。
達彦の、気が変わらないうちにと、亀婆に言われた恵奈は
そのまま役所へ、婚姻届けを出した。
「え?あの達彦さんと、結婚するんですか?」
役所の、窓口の娘が、驚きの顔で言う。
「親戚だからね~仕方ないんですよ」恵奈は、そう答えるしか無かった。
こんな人まで、この調子なんだ、千波が、あんなに反対するのも頷ける。
その千波の為にも、明日からは、何が何でも
達彦の、女遊びを止めさせないとと、恵奈は、硬く決心した。
達彦から「話が長くなりそうだから、お前は帰ってろ」と、言われ
そのまま島に帰った恵奈は、無事に、籍を入れた事を亀婆に話す。
それを聞いた千波は「姉ちゃんは、昔から、私の頼みは
何も聞いてくれなかったね」と、ぞっとする様な、冷たい声で言う。
え?昔からって、どういう事?そう聞きたかったが
千波は、凄い勢いで戸を閉め、自分の部屋に、閉じこもった。
それから、何日経っても、達彦は帰って来なかった。
痺れを切らした恵奈が、後家さんの家に行くと、蛻の殻だった。
二人が、どこかへ逃げたのは、火を見るより明らかだった。
恵奈の結婚は、始めから前途多難となったのである。
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