帰郷

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50歳の久幸に、田舎の島で育ち、世間の事は、何も知らない 16歳になったばかりの恵奈が、立ち向かう事など出来なかった。 ここを辞めようか、、でも、給料の半分を、島に送っていた恵奈に 「恵奈のお陰で、お父さんも、お母さんも、無理をしなくて済む」と、言う 喜びの手紙を貰っているし、何より、瑠衣が、離してくれそうになかった。 もう少ししたら、久幸はアメリカに帰るんだからと、辞める事は諦める。 久幸は、瑠衣の隙を見つけては、恵奈を抱いていたが やがて、恵奈は、いつまで待っても来ない生理と 炊きたてのご飯や、茹で卵の匂いを嗅ぐと、気分が悪くなる事で 妊娠した事を知る。 どうしよう、こんな事、誰にも知られてはならない、特に瑠衣には、、、 具合の悪い事を、慎重に隠し、恵奈は、久幸に妊娠した事を告げた。 だが、久幸は、眉も動かさず、引き出しから10万円入っている封筒を出し 「降ろして来なさい」と、一言、言っただけだった。 「えっ」驚く恵奈に「そんな子、産んでもしょうがないだろ」と、言い放つ 自分の子供なのに、、恵奈には、考えられない言葉だった。 久幸は、子供嫌いなのだろうか?だから、奥様にも 子供を、産ませないのだろうか?いやいや、今は、そんな事どうでも良い。 降ろせって言われても、産婦人科に行く事になるのだろうが どこに、有るんだろう、瑠衣に内緒で、行けるだろうか。 どうすれば良いか、詳しく聞こうとした久幸は 突然アメリカの、妻の元へ帰って行った。 唯一の、相談相手を失った恵奈は、買い物に行った時、病院が無いか探し やっと、産婦人科が有る場所を見つけた。 瑠衣に頼んで、一日休みを貰い、何度も躊躇った後、産婦人科へ入って 小声で、子供を降ろしたい事を、受付に告げる。 だが、その声は、待合室にいた人、全員に聞こえた様で 皆は、一斉に恵奈の方を見て、小声で「まだ子供みたいなのに、、」 「全く、近頃の若い子は、、、」等と言う声が、耳に届く。 恵奈は、皆の非難の言葉に晒されながら、うつむく。 そんな恵奈を、じろじろ見た、受付の人は、一枚の紙を呉れ 「では、同意書に、名前を書いて判子を押して来て下さい」と言う。 「ど、同意書?誰に?」「勿論、お腹の中の子供さんの、父親ですよ」 「今、アメリカに行っていて、居ないんです」恵奈は、小さな声で言った。 「では、親御さんでも良いですよ」受付の人は、面倒臭そうに言うと もう「次の方」と、次の人を呼ぶ、大きなお腹の妊婦に 押しのけられる様に、その場を離れ、瑠奈は、逃げる様に、病院を出た。 同意書、、当然だが、そんな物が要る事も、恵奈は知らなかった。 どうしよう、どうしよう、、そんな恵奈の頭に 「親御さんでも良いですよ」と言った、受付の人の言葉が過る。 お父さん、お母さん、、、この切羽詰まった状況を、相談するのは もう親しか居なかった「何と言う、馬鹿な事を」と、きっと叱られる。 それでも、このままでは、どう仕様もない。 恵奈は、決心して、瑠衣に辞めたいと告げた。
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