帰郷

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きっと、何故だと聞かれる、そう考えて 「母が倒れたと言う、知らせが有ったんです、お祖母ちゃんと、父の世話も 母の世話もしないといけないので、、」と、良い訳をして 何とか、辞める事になった。 「お母さんが元気になったら、直ぐに帰って来てね、待ってるから」 瑠衣は、そう言うと、お見舞いだと50万円の入った封筒を渡す。 「こ、こんな大金、貰う訳には、、」恵奈が、返そうとすると 瑠衣は「良いのよ、本当に良くしてくれたんだもの、その代わり また、絶対、私と一緒に暮らしてね、待ってるわ」と、その手を押し戻す。 恵奈は、有り難く、そのお金を貰って、故郷へ帰る列車に乗ったのだった。 話を聞き終えた両親と、鶴と亀は「何と言う、男だ」と、久幸の事を罵り 「とにかく、今日は疲れているんだ、全ては、明日という事にして ゆっくり休め」「そうだよ、皆が付いている、安心して、体を休めろ」 と、恵奈を、寝かせた。 物凄く、怒られると、覚悟していたのに、誰も怒る事なく 恵奈の体の心配をしてくれる。 「やっぱり、帰って来て良かった」と、恵奈は、安心して眠りについた。 翌日、久幸夫婦に、連絡が取れないかと、瑠衣の家に電話をしたが 何度掛けても、瑠衣は、出なかった。 「親子で、逃げたな」と、父の寛治が憤慨する。 「瑠衣様は、そんな人じゃ無いよ、この事も、知らないんだから」 恵奈は、そう言ったが、それから何日経っても、瑠衣に連絡は取れなかった。 「もう、彼奴らの事は、諦めよう」 「そうだ、こんな事をしている場合じゃ無い」皆がそう思うのは どうしよう、どうすれば良いと、悩んでいた間に 恵奈の体は、もう子供を降ろせない四カ月に、なっていたからだ。 病院へ行って、何とか子供の始末は出来ても 勤め先の主人の子供を、身籠って帰って来たと、街中に知られる。 そうなれば、恵奈の今後は、辛い物になる、可哀そうな、この子を これ以上、辛い目に遭わせたくない、両親はそう考えた。 そこで「この子は、私が産んだ事にするわ」と、伸江が言いだし 「恵奈の体の為にも、それが一番だね」と、鶴と亀も賛成した。 この島には、鶴と亀の姉妹の家しか無い、誰にも知られず、事を運べる。 恵奈は、就職先の会社が、倒産したから、帰って来た事にし 伸江は、思いがけず、16年ぶりに子供を授かった 34歳という年齢だから、その出産の手伝いをさせると、言う事で 恵奈が、島に居る理由を、聞く人たちに話した。 この島での、出産は、年寄や女達が手伝って行う。 恵奈は、17歳になって、産み月を迎えた、やがて出産が始まり 鶴と亀、伸江の手で、無事に女の子を産んだ。 寛治は役場に行って、千波と名付けた、その子を、自分の娘として届け出た。 恵奈は、母でありながら、千波の姉と言う立場になった。 そんな、恵奈のお乳を飲んで、千波は、すくすくと育って行く。 「赤ん坊って、良い物だな~」「全くだ、毎日の仕事に、張りが出る」 と、可愛い千波によって、恵奈一家は、幸せな一年が過ぎて行った。 ただ、亀だけは、可愛い孫の達彦が、一向に帰郷しないと、嘆いていた。 「男の子なんだ、心配は要らんよ」と、伸江が慰め 「今度、学校へ行って、良い就職先を、先生にお願いするよ」と、寛治も言う
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