帰郷

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自分を、孫の様に可愛がってくれた日々が、思い出される。 あれほどの資産家の瑠衣が、どこにも、頼る人が無く、こんな田舎に住む 私を、頼って来るなんて、、父が、何度電話を掛けても、出なかったのは 従弟の家で、暮らしていたからだったのか。 どうしよう、可愛い千波の傍を、離れたくは無かったが 中卒で、何の資格も持たない恵奈が、働ける場所は、この田舎町には無かった 魚の加工の仕事は、有るが、何時でもという訳では無く 最低の賃金しか貰えない。 千波が大きくなって、学校へ行くようになれば、お金も、うんと要る。 鶴も、足腰が悪い上に、喘息持ちで、病院通いをしている。 何より、両親の葬儀に使った大金は、亀に借りている。 その金は、長太の交通事故の補償金の一部だった。 それも、少しずつでも、払わねばならない、そのお金は 亀が達彦の結婚式の為にと、貯金していた物だったからだ。 お金の為には、遠くても瑠衣の所が一番だった。 何しろ、住み込みだから、寝る場所にも、食べ物にも、お金はかからない。 瑠衣は、給料の他に、なんだかんだと、小遣いも呉れる。 気になる久幸は、もう帰って来ないと言うし、、、恵奈は、心を決めた。 「婆ちゃん達、千波の世話を、お願いします」 恵奈は、鶴と亀に千波を頼み、遠い瑠衣の所へ行った。 「おねぇちゃ~ん」と、呼ぶ、千波の声が聞こえない様に、耳を塞いで、、 「良く来てくれたわね」出迎えた瑠衣は、嬉し涙を零して、恵奈の手を握った 瑠衣が住む離れは、何も変わった事も無く、一気に昔に戻った様な気持ちで 瑠衣の世話をする「そう、ご両親が亡くなったの?大変だったわね」 瑠衣は、会えなかった間に、恵奈にも、そんな辛い事が有ったのかと、驚く。 そして、幼い妹と祖母の生活を、支えなければならなくなったと言う恵奈に 今までより、多くの給料を支払ってくれた。 恵奈は、そのお金を、せっせと送り続けた。 瑠衣は、前より体が弱っていて、病院へ通う事が多くなった。 内科、整形外科、眼科、歯科、皮膚科等、日替わりで、色々な病院へ通う。 その病院には、予約通りに行かねばならず、結構、忙しかった。 恵奈が、島に帰って、千波に会えるのは 病院も休みになる、盆と正月だけだった。 千波は、別れた時より、うんと大きくなり、色々な事が出来る様になって 久しぶりに会う恵奈を喜ばせる。 どこに努めても、腰が座らない達彦は、島に帰って来ていて 寛治が残した船で、釣り人を磯に下ろす仕事や 大島の、魚の運搬などを頼まれて、船を出すと言う、まるで アルバイトの様な仕事をしていたが、女に、だらしなくて いろんな女と、付き合っては、問題を起こしていた。 「問題って?」と、恵奈が聞くと「夫の居る人とも付き合って その夫が、怒鳴りこんで来たり、、」「ええっ」 「女と、駆け落ちして、二か月程、帰って来なかったり」 「ええっ」恵奈が、驚く事ばかりだった。
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