帰郷

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その後追いは、年々酷くなり、いつまでも続いた。 「姉ちゃんは、婆ちゃんと千波を養う為に、働いているんだよ 我慢して、留守番しような」 鶴は、いつまでも泣き止まない千波の、頭を撫でながら言い聞かせる。 そんな千波の為に、恵奈は、クリスマスや、誕生日には 千波が欲しがりそうな、洋服や玩具を買っては、送っていた。 そんな生活が、10年経ち、80歳になった瑠衣は、帰らぬ人となった。 恵奈は、泣きながら、様々な、後片付けをしていたが 久幸が帰って来るんだと気づく。 千波の事を、言った方が良いのか、だが、もう千波は、恵奈の妹になっている今更言っても、仕方が無いのではないか、冷たく「降ろしなさい」 と言った、無情な久幸の顔など、見たくは無い。 等と考えると、心は乱れ、眠れなかった。 だが、帰って来たのは、娘の恒子だけだった。 久幸は、アメリカの会社の、手が離せないと言う、親が死んだというのにと 恵奈は呆れたが、久幸の顔を見なくて済んだと、ほっとする気持ちも有った。 葬儀は、形ばかりの質素な物だった。 「長年、母の面倒を見てくれて有難う、母は、恵奈にも 遺産を少しやってくれって書き残していたけど、今、うちは倒産寸前なの お金が必要だから、この家も土地も、全て売り払うつもりなの。 貴女に、あげられるのは、これだけだけど、我慢してね」 恒子はそう言うと、300万円を呉れた。 そんなに苦しい事情なら、このお金は、戻そうかと思ったが もう、中学二年生になった千波を、高校にやるには、お金が要る。 ここを辞めた後、直ぐに、次の仕事に就ける当ても無かった。 それで「有難うございます」と、受取り、そのまま島へ帰る。 「姉ちゃん、お帰り~当分は、何処にも行かないんでしょ」 「ええ、次の仕事が、見つかるまではね」「やった~っ」 もう、恵奈と、同じ位の背になっているのに、千波は、子供の様に喜ぶ。 「さぁさぁ、10年分の疲れを取りな」鶴と亀は、恵奈の好きな 魚の刺身や、煮物を並べながら言う。 新鮮な刺身と、煮物を食べ、風呂に入り 懐かしい、波が寄せてくる音を聞きながら横になる。 傍には、千波が、くっついて寝ている「いつまで経っても、子供みたいに」 寝顔が、久幸に似ていると思いながら、布団を掛けてやる。 もう、亀婆の借金も、船のローンも返し終わったが 「しばらく休んだら、次の仕事を見つけないと、、」 まだまだ、この先、大きなお金が必要になる。 もう、年老いた二人の姉妹の老後と、もしもの為の葬儀費用 達彦は、当てにならないし、ゆくゆくは、千波の結婚費用も、、、 そう考えると、魚の加工などの、いつ有るか分らない仕事より どこか確かな所で、出来れば正社員として働きたいと思う。 だが、やはり中卒と言う、壁が有る。 「こればっかりは、どうにもならないな~」 恵奈は、深いため息をつく。 それでも『取り合えず、船舶免許は取ろう』と、目標を立てた。 病院も、買い物も、本郷の町に行くしか無い、その送り迎えは 達彦が、しているが、居ない時は、知人に頼むしか無かった。
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