結婚

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結婚

千波の毎日の通学が、一番困るし、急な用事が出来た時や 夜などは、頼むのは申し訳なくて、身が縮む思いをする。 達彦が居れば、その心配は無い、だからつい達彦の説教が、緩くなり それを知っている達彦も、女生問題を起こしても、けろっとして帰って来る。 その達彦も、今は居ない、季節労働者として、車の組み立て工場へ行っている私が、船舶免許を取れば、達彦なんか、当てにしなくても良い。 恵奈は、さっさと船舶免許を取り、千波の通学や、二人の年寄の 病院通いの、船を出してやる。 達彦は、六か月と言う約束で行った工場を、三か月で辞め そこの女工をしていた女性と、どこかへ消え その女工の親が、怒鳴りこんで来たが、亀と鶴、恵奈には どこへ行ったのか、皆目、見当もつかなかった。 恵奈は、亀の願い通りに、駐在所へ行って、達彦の捜索願を出した。 「またですか?」定年間近だと思える、柔和な顔の、お巡りさんが言う。 達彦が、行方不明になる度に、亀は、捜索願を出していた様だった。 「どうせ、また、二、三か月したら、帰って来るんでしょうな~」 お巡りさんも、慣れた調子で言う。 「お手数かけて、申し訳ありません」恵奈は、亀の代わりに謝った。 深いため息をつきながら、駐在所から出てきた恵奈に 「水木さん、帰っているの?」と、声を掛けたのは 中学の同級生の、高田大輔だった。 「大ちゃん!!久しぶりだね~」中学生の時は 大人しくて、目立たない存在の高田だった。 こうして、話し掛けて来るなんて、その当時なら、有り得ない事だった。 「久しぶりだな~時間が有ったら、お茶でも飲まない?」 こんな事まで言うなんて、お互い、もう30歳過ぎたからな~と、思い 「良いわね、ちょっと気分が落ち込んでいたから、すっきりしたいわ」 と、近くの喫茶店に入る。 「大ちゃん、こんな田舎で、何をしているの?」 書類のファイルを抱えて、いかにも仕事中と言う、大輔の様子を見て聞く。 「介護施設で、施設長をしているんだ」そう言えば、二、三年前に 介護施設が出来たって、鶴と亀が話をしていた事が有った。 「施設長?偉いわね~」「あはは、えらいのは体だけどね」 そんな冗談も言う大輔は「何か有ったの?落ち込んでいるって?」 と、聞く「貴方も知ってるでしょ、達彦の事よ」 「ああ、また?」やっぱり、誰でも知っていると、恥ずかしくなる。 「彼奴の事は、どうでも良いけど、私、中卒でしょ、仕事が無くて」 と、何故、ちゃんとした仕事に付きたいかを、話しながら こんな話を聞いてくれる人と、出会えた事が嬉しかった。 「じゃ、うちで働かない?ヘルパーの資格を取るの、君なら簡単だと思うよ」 「え?ヘルパー?」「うん、大変な仕事だから、長続きする人が居なくて 年中、人手不足なんだ」と、大輔は、仕事の内容や、待遇について話す。 年寄り相手なら、慣れたものだ、私に向いている。 恵奈は、誘いに乗り、直ぐにヘルパーの資格を取る講習会に行った。
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