10人が本棚に入れています
本棚に追加
結婚
千波の毎日の通学が、一番困るし、急な用事が出来た時や
夜などは、頼むのは申し訳なくて、身が縮む思いをする。
達彦が居れば、その心配は無い、だからつい達彦の説教が、緩くなり
それを知っている達彦も、女生問題を起こしても、けろっとして帰って来る。
その達彦も、今は居ない、季節労働者として、車の組み立て工場へ行っている私が、船舶免許を取れば、達彦なんか、当てにしなくても良い。
恵奈は、さっさと船舶免許を取り、千波の通学や、二人の年寄の
病院通いの、船を出してやる。
達彦は、六か月と言う約束で行った工場を、三か月で辞め
そこの女工をしていた女性と、どこかへ消え
その女工の親が、怒鳴りこんで来たが、亀と鶴、恵奈には
どこへ行ったのか、皆目、見当もつかなかった。
恵奈は、亀の願い通りに、駐在所へ行って、達彦の捜索願を出した。
「またですか?」定年間近だと思える、柔和な顔の、お巡りさんが言う。
達彦が、行方不明になる度に、亀は、捜索願を出していた様だった。
「どうせ、また、二、三か月したら、帰って来るんでしょうな~」
お巡りさんも、慣れた調子で言う。
「お手数かけて、申し訳ありません」恵奈は、亀の代わりに謝った。
深いため息をつきながら、駐在所から出てきた恵奈に
「水木さん、帰っているの?」と、声を掛けたのは
中学の同級生の、高田大輔だった。
「大ちゃん!!久しぶりだね~」中学生の時は
大人しくて、目立たない存在の高田だった。
こうして、話し掛けて来るなんて、その当時なら、有り得ない事だった。
「久しぶりだな~時間が有ったら、お茶でも飲まない?」
こんな事まで言うなんて、お互い、もう30歳過ぎたからな~と、思い
「良いわね、ちょっと気分が落ち込んでいたから、すっきりしたいわ」
と、近くの喫茶店に入る。
「大ちゃん、こんな田舎で、何をしているの?」
書類のファイルを抱えて、いかにも仕事中と言う、大輔の様子を見て聞く。
「介護施設で、施設長をしているんだ」そう言えば、二、三年前に
介護施設が出来たって、鶴と亀が話をしていた事が有った。
「施設長?偉いわね~」「あはは、えらいのは体だけどね」
そんな冗談も言う大輔は「何か有ったの?落ち込んでいるって?」
と、聞く「貴方も知ってるでしょ、達彦の事よ」
「ああ、また?」やっぱり、誰でも知っていると、恥ずかしくなる。
「彼奴の事は、どうでも良いけど、私、中卒でしょ、仕事が無くて」
と、何故、ちゃんとした仕事に付きたいかを、話しながら
こんな話を聞いてくれる人と、出会えた事が嬉しかった。
「じゃ、うちで働かない?ヘルパーの資格を取るの、君なら簡単だと思うよ」
「え?ヘルパー?」「うん、大変な仕事だから、長続きする人が居なくて
年中、人手不足なんだ」と、大輔は、仕事の内容や、待遇について話す。
年寄り相手なら、慣れたものだ、私に向いている。
恵奈は、誘いに乗り、直ぐにヘルパーの資格を取る講習会に行った。
最初のコメントを投稿しよう!