短い逃避行

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見渡せば山と田んぼに囲まれた田舎の小さな町で育った。 十七年、住んでて最近やっと歩いて二十分のところにコンビニが出来たくらいの田舎だ。 みんな高校を卒業したらここから離れていく。 自転車を勢いよく漕ぐと、六月の気持ちのいい風が全身を吹き抜けていく。 四方に広がる田んぼを眺めながら、この町のいい所なんて空気が綺麗ってだけだなと呟く。 真っ直ぐにのびた田んぼ道に目線を戻すと 少し離れたところに見慣れた後ろ姿が見える。 「おーい!美沙!」 声に気づいた美沙は振り返り 「悠!」 にっこり微笑む美沙は小柄で黒い艶のあるロングヘアーにつぶらな瞳がお人形さんみたいで可愛らしい。 「乗ってく?」美沙の隣に追いつき、荷台を指さすと「ありがとう」と言いながら座り俺の腰に手を回す。 「テスト勉強してる?」と美沙が覗き込むように俺の顔を見る。 「してるように見える?」 「見えない」 「赤点取っても知らないよ」 「だよなー」 自転車を漕ぎながら大袈裟に肩を竦める俺を見てくすくすと美沙は笑っている。 「もうすぐ高校最後の夏休みだよ」 「そうだよな⋯補習はいやだ!!」 「補習はいやだよねえ」 言い終わると同時にガタッと自転車が揺る。 美沙は荷台から落ちそうになり、腰に回していた腕にぎゅと力が入って俺の背中と美沙の身体が密着する。 「大丈夫か?」 「大丈夫!」 ふと、いい匂いがした。 密着した身体と匂いを意識してしまい全身に熱が集中する。 落ち着け俺っ! バクバクした心臓を落ちつかせるために深呼吸しようとしたが上手く出来ない。 密着した身体が離れる気配はなく、加速する鼓動が伝わらないように漕ぐ脚を早めて心臓の音を誤魔化した。
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