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ふと、井浦は目の前の女体の神秘をまじまじと爪先から頭の天辺まで眺めると腰の手錠に手を掛けた。
「佐々木咲、公然わいせつ罪で逮捕する!」
「彼氏の家で脱いでて何が悪い!」
「脱ぐような事をしたのか!」
「事後よ!」
「事故!」
「耳まで老化したんじゃ無いの!?セックスした後って言ってるの!」
「せ、せっくす」
「赤い顔すんな、キモいな!」
井浦は理由は分からないが独身である。
彼女が居たとか離婚したとか、女性に纏わる浮いた話は一切無い。
「く、くそっ!」
「何、悔しがってんのよ」
言葉に詰まったが大きく息を吸い、再び傍迷惑な大声でその名を呼んだ。
「しまじろー!居るんだろ!入るぞ!」
「あ、ちょ」
革靴をポイポイと脱ぎ散らかす。咲は仕方ないとため息を吐きながら、それを左右に揃え玄関ドアの鍵を回した。
開け放たれたカーテン。
朝日が差し込むキッチンで黒いTシャツとハーフパンツ姿のしまじろーはコーヒーメーカーのスイッチを入れ、お揃いの三個のコーヒーカップをトレーに並べて微笑んだ。
井浦はベージュのトレンチコートを脱ぐと焦茶の革のソファーに投げ、咲はそれをむんずと掴むと木製のハンガーに掛けた。
「井浦さん、おはようございます」
「おう」
「気持ちの良い朝ですね」
「俺はチワワに吠えられて気分最悪だがな」
その目は白いワイシャツにグレーに濃灰の細かい縦縞のタイトスカートを履いている咲を一瞥した。
「勤務後に一発タァ、元気なこって」
「あんた、源次郎の勤務表でも持ってんじゃないの?」
井浦は焦茶のスーツの胸ポケットから折り畳んだ白い紙を取り出して咲に見せて寄越した。それを開いた眉間に皺が寄った。
「なんであんたがこれ持ってんのよ」
「しまじろーがコピーしてくれたんだ」
「あ、井浦さんが欲しいって言ったのでコピーしました」
「源次郎、バカなの!?」
「え」
「これからもこ、い、つ、はこうやってイチャコラしている所に乱入して来るわよ!」
「ふふん」
「ふふんじゃないわよ!」
リビングに苦みを含んだ香ばしいコーヒーの匂いが広がった。
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