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「やめろ」  一歩、悠李から距離を取る。 「おれはあんたの期待するような人間じゃない」  外見だけが整って、中身の伴っていない出来損ない。卯月宗佑とは、そういう人間だ。 「それはきみが決めることじゃないでしょ」  悠李が腰に片手を当てながら言う。 「俺は別に、きみに対して大きな期待なんてしてない。俺は俺の気持ちに正直に生きてるだけ。きみに興味がある。きみのことをもっとよく知りたい。ただ純粋にそう思ってるだけだ」 「きれいごとなんかいらねぇんだよ!」  叫ぶように言い返した宗佑の声は震えていた。昔味わった、悪い夢みたいな思い出が蘇る。 「みんなそう言って、最初は愛想良く近づいてくるんだ。だけど結局、離れてく。おれがどんなヤツか知った途端、みんな」  声だけでなく、指先まで小刻みに震え出す。バレないようにきゅっと握った。悠李はなにも言わず宗佑を見ている。 「どうせあんたも同じだろ」  これで最後だと言わんばかりの言葉を放つ。 「あんたみたいな、誰にでも優しくできる八方美人的なヤツが、おれはいっちばん嫌いなんだよ」  言うだけ言って、逃げるように生活安全課の前を離れる。エレベーターを待つことなく、階段で五階まで駆け上がった。  廊下へ出ると、宗佑は壁に背を預けた。弾んだ呼吸を整えたいのに、うまくいかない。  それだけじゃない。心の整理も全然つかない。  悠李の声が、かけてもらった優しい言葉が、耳の奥でリフレインする。  ――好きだよ。  ――俺は好きだよ、きみのこと。  うっとうしい。好きだよ、なんて、男が男にかけるような言葉じゃない。  だけど、なぜか拒絶できずにいる。あたたかくて、そのぬくもりが心の隅々に染み渡っていくのを感じる。  顔の半分を右手で覆い、頭を下げる。  なんなんだ、この気持ちは。  愛されないことが当たり前だったのに。それでいいと思っていたのに。  なのに、どうして。  どうしておれは、あの人の言葉を嬉しいと感じている?  好きと言われ、嫌いだと言い返してしまったことを、どうしてこんなにも悔いている?
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