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「堅い挨拶はなしにしよう」  宗佑が頭を上げると、悠李は友達に話しかけるようなフランクな言葉づかいで言った。 「きみとはほら、ある意味では仲間みたいなものじゃないですか。副署長のお眼鏡にかなった者同士ってことで」 「はぁ……まぁ、そうですね」  幹部クラスに気に入られることは決して悪いことではないはずなのに、あの一件に関してはいまだに納得のいかないところがある。断れなかった自分にも非はあるけれど、それにしたって。  宗佑の不機嫌を悟ったのか、悠李はさわやかな笑みを浮かべ、当たり障りのないことを言った。 「元気そうでよかった。事件で一緒になるのははじめてだね」 「えぇ。よろしくご指導ください」 「俺のほうこそ。刑事事件はそちらの専門分野ですから」 「いえ、今回は少年事件という側面もありますので、ぜひ勉強させていただきたいです」  悠李の謙遜に上塗りするように、宗佑はどこまでも自分を下げていく。悠李は宗佑よりも採用が二年早く、上下関係を重んじる古い体質の警察組織にあっては、先輩を立てることは後輩の使命だ。  たとえ相手が、どれだけ嫌いな人だとしても。 「ガードが固いなぁ、相変わらず」  悠李が一歩宗佑に近づく。もう一歩距離を詰められる前に、宗佑は自ら一歩退()いた。 「ほら、そうやってすぐに逃げちゃうんだ、きみは」  悠李はおもしろいおもちゃを見つけたような顔で言った。 「あの時もそうだった。あの日の打ち上げ、きみは当直だからって来なかったけど、きみ、わざとあの日に当直が当たるようにシフトを組み直してもらったそうだね」  射貫くような目で見つめられる。ダメとわかっていながら、宗佑は瞳が揺れてしまうのをこらえきれず、悠李はそれを見逃さなかった。  悠李の口もとに、勝利を確信したようなささやかな笑みが浮かんだ。 「本来のあの日のきみの勤務は、俺たちと同じ日勤だった。あの仕事が終われば、きみは俺たちと飲みに行けるはずだった。なのに、きみは当直だからと言って逃げた。そうでしょう?」  物理的な距離ではなく、心理的に追い詰められる。まるで彼から取調べを受けているようだ。気に入らない。
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