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「幼稚園の頃から、一人遊びが好きな子どもだったみたいです。友達は少なくて、自分から積極的に作りにいくようなタイプでもなかった。おまけに母が出て行って、小学校高学年になる頃には学校と自宅と近所のスーパーを行ったり来たりする生活が当たり前になって、気づいたら学校にいる間もほとんど誰とも口を利かなくなっていました。しょうがないよな、家庭(うち)は普通じゃないし、って最初のうちは思ってたけど、ある日、そうじゃなかったんだってことを偶然知ることになって」  きっかけは、小学校六年生の頃に宗佑のクラスにやってきた転校生の女子だった。ポテトサラダをスプーンですくい、皿の隅に盛り付けながら、思い出したくもない過去を無理やり掘り起こして語る。 「クラス替え当初、おれはその子と席が近くて、どうやら向こうがおれのことを好きになったみたいで。そういう会話が女子同士の間でされていたことをたまたま知ったんですけど、まぁ、悪い気はしないですよね。でも、とある男子がその子におれのことをこう言ったんです……『あいつとはかかわらないほうがいいよ。暗いし、ノリ悪いし、あと、お父さんが警察官でめちゃくちゃ怖いから』って。内容はともかく、それを言ったの、おれの一番仲がよかった友達だったんですよ。まぁ、仲がいいと思ってたのはおれだけだったわけだけど」  ショックだった。その転校生の女子だけでなく、どうやらそいつは他のクラスメイトに対しても宗佑のことを悪く言っていたらしい。  その理由が、宗佑が無駄にモテてしまったせいだということものちに知った。幼い頃から宗佑は、黙って席についているだけで女子の目を引いてしまう容姿をしていた。  そんな話を付け加えると、悠李は悲しげな笑みを浮かべて口を開いた。 「わかる気がするな。きみは今でもかわいいんだから、子どもの頃は天使みたいだっただろうね。同性からの反感も買いそうだ」  宗佑は思わず悠李を見た。 「そこかよ、一番引っかかったところは」 「ごめん、つい。だけど、きみが人間不信になるのもよくわかるよ。きみ自身のことを悪く言われるだけならまだしも、お父さんのことまで引き合いに出されるのはつらいな」  父、か。宗佑は空になったタッパーに水を浸し、フライパンのふたを開ける。  肉の焼けるいい香りがふわっと大きくキッチンに広がった。火の通り具合を確かめながら、もう一度ひっくり返して焼く。
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