8.

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 右手を悠李の手に包まれたまま、宗佑は視線を下げる。 「……おれは、あんたに好かれるだけの価値がある人間じゃない」 「それはきみが決めることじゃないよ」 「だけど」 「宗佑」  悠李が手に力を入れた。 「好きだよ、宗佑」  ()でるように、宗佑をファーストネームで呼ぶ。狭い部屋の中に、悠李の口にした愛の言葉が広がっていく。  宗佑が愛せない分まで、悠李は宗佑を愛してくれると言った。その言葉に嘘がないことを証明するように、悠李は宗佑を抱き寄せた。 「きみが心から信じられる男になる。いつかきみに、好きだと言ってもらえるような男に」 「川上さん」 「時間をかけてくれていい。今すぐ答えを出す必要はない。だけど、これだけは覚えていて。俺はいつだって、きみの味方だから」  愛する気持ちが、よりいっそう宗佑を大切にしたいと願う悠李の想いを強くする。上辺(うわべ)だけの態度じゃない。悠李はそんなことをする人じゃない。そう思える。心から。  悠李が腕の力を緩める。朗らかに微笑みかけられる。 「ごはんにしようか。せっかくのハンバーグが冷めちゃう」  悠李がキッチンへと歩み寄る。「お箸はどこ?」と引き出しを開けている。  宗佑はその背中に近づき、悠李のシャツをそっと掴んだ。振り返る悠李のことは恥ずかしくて見られなかった。 「……おれは」  声が震える。顔が熱い。 「誰かを好きになったことがないから。あんたのことも、好きになれないと思ってた」  悠李は困ったように肩をすくめた。 「俺が完璧で、隙のない人だと思ってたから?」 「それもあるし、おれと違って、あんたには自分に自信があるのが見えたから。そういう人、苦手」  いよいよ悠李は声を立てて笑った。 「はっきり言うなぁ」 「すいません。だけど」  口に出すのは猛烈に恥ずかしい。けれど、今しか言えないような気がした。 「信頼は、できる。あんたは悪い人じゃない」  そこから始めてみたいと思った。伸ばされた手を取って、同じ歩幅で歩いてみる。  そうすれば、少しずつかもしれないけれど、悠李のことを好きになれる気がする。そうなりたいと強く思う。
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