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9.
宗佑だけがビールに手を出し、すっかりほろ酔いで食事を終えた。いつもは顔色の変わらない宗佑だが、悠李がすぐ隣にいるせいか、頬が赤らんでいるのがわかる。
「幸せだなぁ」
ベッドのフレームに背を預け、二人並んでフローリングに座っている。悠李は自らが幸福の中にあることを隠しもしないで、宗佑の腰に手を回した。
「おいしいごはんと、隣には、好きな人」
二つのからだが密着する。宗佑は思わず右隣の悠李から逃げるように顔をそらした。
「やめて」
「なんで」
「近い」
「いいじゃん」
酒が入っているのは宗佑だけのはずなのに、宗佑を見つめる悠李の目はとろんととろけているように見える。
「好きなんだもん、きみのこと」
反対の手を頭の後ろに手を添えられ、悠李は唇を重ねてきた。
不意打ちをくらい、一瞬驚く。けれど今度は、悠李の熱に自然と身をゆだねられた。
案外、悪くない。宗佑は静かに目を閉じる。
男とキスをするのははじめてだった。相手が悠李だからなのか、思っていたよりずっと優しくて心地いい。
深い交わりを求め出した悠李の舌に歯の隙間をこじ開けられる。侵入してきた彼の舌は口腔を自由気ままに這い回り、甘い刺激がからだじゅうを巡る。
「ん……っ」
喉の奥で声が漏れる。悠李は唇を離し、宗佑の前髪をかき上げた。
「ねぇ、抱いていい?」
「は?」
「いいよね、宗佑」
返事は待ってもらえず、悠李は宗佑の手を取って立ち上がる。されるがまま、宗佑はベッドの上に寝かされた。
「ちょ、待っ……!?」
馬乗りになった悠李が、再び宗佑の唇を奪いに来た。二人で乗るには狭いセミダブルのベッドがキィ、と軋む音を立てる。
さっきよりも大きく食まれる。理性の箍がはずれたかのようにキスをし続ける悠李がだんだんいつもの悠李じゃなくなっていくようで、少し怖い。
宗佑の口から、意図せず熱っぽい吐息が漏れる。悠李の手に頬を包まれ、伝わるぬくもりに恐怖がゆっくりと薄れていく。
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