10.

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「ねぇ、お願い。お願いだよぉ、宗佑くん」  五階にある刑事課の事務室まで押しかけてきた悠李が、デスクワークに励む宗佑の肩に手を置き、ゆっさゆっさと宗佑のからだを大きく揺すった。 「嫌だっつってんだろ、うっとうしい」  肩から悠李の手を払いのける。椅子に座ったままにらむように見上げると、悠李はなおも嬉しそうに言った。 「食べさせてくれるって言うまで戻らない」 「いいな、生活安全課(そっち)は暇で」  ランチ時である。警察とてお役所ゆえ、正午から午後一時までは職員の休憩時間と定められている。宗佑が事務室に残っているのは電話番を任されているからで、一時になってみんなが戻ってきたら昼食を摂る予定になっていた。  というわけで、悠李も絶賛休憩時間中であるわけだが、食堂へ行くわけでも、外へ食べに出るわけでもなく、彼はまっすぐ刑事課の事務室へやってきた。もちろん、そこに宗佑が電話番として待機していることを知っていて、である。 「いいじゃない、減るもんじゃないんだし。材料費だって俺が出すって言ってるんだから」  悠李は一歩も退く様子を見せず、宗佑に言う。先日ハンバーグを食べさせて以来、悠李は毎日のようにこうして宗佑に夕飯をねだりに来ているのだった。 「めんどくせぇんだって、二人分の食事を作るの。見たろ、うちのキッチン。あんな狭いところじゃろくなもん作れねぇから」 「きみが作ってくれるならなんでもいいの。それに、もともとはお父さんの分も作ってたんでしょう?」 「何年前の話をしてんだ、あんたは」 「いいじゃん。一人分も二人分も変わらないよ。ね、お願い」  パチン、と顔の前で手を合わせる悠李。ただでさえ美しい顔面にかわいらしさがプラスされて、不覚にも胸がキュッとなった。  鳴ってほしくないと願っていた電話が無情にも鳴り響く。宗佑はイヤイヤ受話器に手を伸ばし、「刑事課、卯月です」と低い声で応じた。  一階の受付での対応を求められる。厄介な客でないことを祈りつつ、すぐに向かう旨の返事をして電話を切り、席を立った。 「ちょっと受付まで行ってきます」 「そう。仕方ないね、仕事なんだから」  悠李の声に元気がなくなり、表情も笑ってはいるけれど暗く見える。しょんぼりとさみしそうにする彼の姿に、また胸がキュッとなった。  宗佑は黙って、足もとに置いていた鞄の中へ手を突っ込む。取り出したのは、黒い保冷バッグに入れてきた弁当箱。
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