10.

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「あげる」 「え?」 「弁当。あんたに渡すために作ったわけじゃないから、中身はショボいけど」  今日のメインは昨日の夕飯に作った豚肉とパプリカの甘辛炒めを少し残しておいたもので、あとはたまご焼きやほうれん草の煮びたしなどを適当に詰めただけの質素な弁当だった。量もあまり多くないので、悠李の腹を満たすにはやや足りないかもしれない。  悠李は目をぱちくりさせながら保冷バッグを受け取ると、やがてきらきらと瞳を輝かせて宗佑を見た。 「愛妻弁当……!」 「ふざけんな。おれはあんたの妻じゃねぇ」 「はぁ。いいお嫁さんをもらって幸せ」 「だから……!」  イラッとしながら、心臓の鼓動は高鳴る。「ありがと」と嬉しそうに言う悠李のことが、悔しいけれど、愛おしい。  ドキドキする胸をどうにか鎮め、宗佑は言った。 「……明日、来る?」  つい、自分から誘ってしまう。悠李の表情がさらに明るくなった。 「いいの?」 「うん。今日当直だから、明日の夜だったら起きてる」 「やった、行く行く!」 「食いたいもん考えといて」 「了解」  弾む声で言い、「じゃあ、明日」と言って悠李は刑事課の事務室を出て行った。自分も一階まで下りなければならないことを思い出し、宗佑は悠李の背中を追う。  二人でエレベーターに乗る。ふと、悠李の締めているブルーのネクタイに目が行った。 「そのネクタイ、もらいもの?」 「これ? そうだけど」  なにげなくこたえた悠李にムッとした。誰にもらったのか聞かずとも、彼に気のある女性からの贈り物に違いない。 「なになに、もしかして()いてる?」  悠李に悪い笑みを傾けられ、宗佑はわかりやすくむくれた。 「別に」 「えぇ、うそ。どうしよう、かわいいじゃん、宗佑」 「やめろって」  頭を撫でようとしてきた悠李の腕を払いのける。  ニヤニヤする悠李に腹を立てる。  あぁ、結局おれはこの人のことが好きなんだと、改めて気づいてしまった自分にも。 【世話焼きさんは放っておけない/了】
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