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「やはり、主犯を落とせないうちは動きませんか、あなたの担当している子どもたちも」 「だろうね。あの手の子らは組織のリーダーを中心とする結束が固い。リーダーから警察にはなにも話すなという指示が出ているのであれば、子どもたちは妄信的にそれを守る」  つまり悠李が言いたいのは、犯人グループのリーダーに対する取調べを担当している宗佑の手腕にすべてがかかっているということだ。宗佑の目つきがいっそう厳しいものになる。  今回の事案の場合、具体的にリンチの指示を出したのは現在宗佑が取り調べている二十一歳の青年と見られているが、実際に被害者を殴りつけたのは悠李が話を聞いている十七歳の少年らであるというのが現時点での捜査で明らかになっていることだった。  被害者の少年はもともと彼ら犯人グループの一味だったと見られ、なんらかの理由で仲間から暴行を受けるに至ったようだが、肝心の理由がまるで見えてこないというのが現状だった。単純な仲間同士の(いさか)いなのか、あるいはこのリンチ騒動の背後で別の事件が絡んでいるのか。少年たちに正しく罪と向き合ってもらい、更生の道を正しく歩んでもらうためにも、警察による捜査で真実を取りこぼすことはあってはならない。  被疑者の少年たちを警察署で拘留できるのは逮捕後四十八時間まで。その後は検察に引き渡され、起訴されればその先には裁判が待ち構えている。  宗佑たち警察に与えられた時間は残り一日と少し。真実にたどり着き、検察には迷いなく起訴に踏み切らせたいが、今回の相手はなかなかに手強い。正直なところ、先に取調べで真実を語らせることができそうなのは、主犯ではなく、悠李が相手にしている少年たちのほうではないかと宗佑は見ている。  子どもたちの心の片隅に眠るはずの良心に、悠李は働きかけてくれるだろうか。若者の相手をさせたらピカイチだという彼なら、あるいは。 「情に訴えてもダメですか」  宗佑が問う。悠李の表情は冴えない。 「情、ね。その方向性にもよると思いますが」 「なら、司法取引を持ちかけるのは? 真実を話せば裁判で減刑されるでしょう」  悠李はいよいよ鼻で笑った。 「子どもをなめちゃダメですよ、卯月くん。言ったでしょう。彼らの団結力は強い。なにより、彼らは俺たち大人を簡単には信用しません。彼らの拠り所は、きみが今取り調べている主犯格の男だけだ」  やはり、そうなるのか。事件解決の鍵を握るのは宗佑の対峙する男であり、また宗佑でもある。
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