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04.説明できない
我慢の限界なんて言葉、どこで覚えたのだろう。和子は台所からお茶の間に出てくる。隣の部屋からは学がしくしくと泣く声も聞こえる。透はお茶の間で戸惑うばかり。
「お父さんいつも遊んでくれないから嫌い」
千夏も父親にそう告げ、学の隣に向かう。それからしくしくと泣き続ける学の背中に手を添え、小さな声をかけている。
「ねえ、お父さん」
見かねた和子は、寂しげに子どもたちを見つめる透に声をかける。
「ねえ、お父さんは最近ずっと帰りは遅いし、日曜だって休日出勤だの用事だのって言っていないし。いったいいつ子どもたちと遊ぶの」
和子は自分でも驚くくらいに怒った声を出す。
「俺だって悪いって思ってるんだよ。でも……」
透は黙り込むばかり。そんな透に和子はますます語気を強める。
「でもって言ったって、私にも説明できないようなことなの?」
「説明できないわけじゃ……。もう少し待ってくれ」
「もう少し? もう少しってどういうこと?」
そう和子が告げても、透はなかなか何も話さない。その後は、ひさびさに声を上げての喧嘩になりかけたが、そのとき千夏が今にも泣き出しそうな視線を両親に向けていることに気づいた。
「ごめんね、別にお父さんとケンカしてるわけじゃないから」
けっきょく翌日の日曜には透はどこかへと出かけて行った。
「私にも言えないような用事って、やっぱり……」
和子の心はますます暗く、そして重くなるばかりだった。
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