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05.オー、モーレツ!
それからも相変わらず、透は帰りの遅くなる日も多いし、日曜日はどこかへと出かけて行った。和子はもう透に対して不満をぶつける気もなくなった。
「いいじゃない。お宅のご主人、『モーレツ社員』なんだから」
買い物帰りに近所の奥さんと立ち話しているとき、その奥さんからそんなことを言われた。
「『モーレツ』って、あのコマーシャルの?」
「そう。『オー、モーレツ!』ってやってるでしょ。そこから朝早くから夜遅くまで猛烈に働くサラリーマンのことを『モーレツ社員』って呼ぶらしいの」
「もっと家のことも見てほしいけど」
「いいじゃない。旦那がモーレツに働いてるのなら」
近所の奥さんは和子にそう告げて笑った。
その日、買い物から帰った和子がテレビを眺めていると、石油会社のコマーシャルが流れた。猛スピードで車が走ってくると、その車が巻き起こした風で女性モデルのスカートがめくれ上がる。
女性モデルはスカートを抑えてカメラ目線になり、そして視聴者に向けて告げる。
「オー、モーレツ!」
和子はバカバカしくなってテレビを消す。その一方で、またあの疑念がむくむくと胸に湧き起こる。
やっぱり、どこかで別の女の人と……。
よからぬ想像が和子の頭に浮かぶ。透があのコマーシャルの女性と楽しそうに過ごし、やがて女性が楽しげに透に告げる。
「オー、モーレツ!」
和子はいやな想像を頭から追い払おうとするみたいに首を振った。
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