06.積もりに積もった我慢

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06.積もりに積もった我慢

 昭和49年の春は去り、そして雨の続く日々となった。 「今度の日曜日、どこか遊びに行こうよ。お父さん」  珍しく早めに帰ってきた透に学がそうせがんだ。透は困った顔。 「もうすぐ梅雨だし、きっと今度の日曜も雨だよ」  学はそれでも食い下がる。 「おうちでお父さんと遊びたい!」  そのとき、千夏も横から口を出す。 「雨ならみんなでデパートに行こうよ」  それから子どもたちが歌うようにはしゃぐ。 「遊びに行きたい! どこか連れて行って!」  子どもたちが透の両側から大きく訴える。 「二人がお父さんと遊びたいって気持ちはよくわかったよ、でもね、今はお父さんも仕事で大事な時期なんだ。だから一生懸命にがんばらないといけないんだよ。夜遅くまで仕事して、日曜日も会社に行って。わかるかな?」  そんな言葉にまだ幼い子どもたちが納得するわけがない。 「遊びに行きたい! どこか連れて行って!」  やっぱり子ども二人が透の両側から大きな声で訴えるばかり。見かねた和子は透に告げる。 「ねえ、次の日曜くらいどうにかならないの?」  透は和子の方に顔を向ける。やっぱり困りきった顔で。 「うーん。俺としても時間を取りたいけど、今は大事な……」  そんな透の言葉が和子の積もりに積もった我慢を刺激する。 「あなたさっきから大事な仕事ってばかり言ってるけど、子どもも大事じゃないの? 家庭は大事じゃないの?」  透にとっても、そして子どもたちにとっても予想外の大きな声だったのだろう。和子の声に部屋は静まり返る。
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