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07.三人の泣き声
「もちろんそうだよ。俺だって子どもたちが大事だし、この家のことだって大事だよ。だからこそ、俺なりに今……」
「それなら口でそう言ってるばかりじゃなくて、実際に行動で示してよ。せめて次の日曜日くらいは子どもたちと過ごすとか」
普段はあまり聞くことのない和子の怒りを含んだ大きな声に、千夏も学も不安そうな顔。まるで自分たちも怒られているみたいに。
「ごめん。でも、次の日曜はもう予定が入ってて」
「子どもよりも大事な予定って?」
すかさず和子がたずねた。
「予定って言ったら、予定だよ」
「だから具体的に言うと、どんな予定なの?」
和子の追求に透はなにも答えられず、口をつぐむばかり。
オー、モーレツ!
和子の頭に車の風でめくれ上がるスカートを慌てて抑える女性モデルの姿が浮かぶ。その瞬間、目からひとすじの涙がこぼれ落ちた。
「やっぱり、ほかに誰かいるんでしょ」
「ほかに誰かって……。おい、子どもの前だぞ」
和子の涙を目にして、透は動揺するばかり。子どもたちは和子につられて泣き出しそうな顔。
「きっとそうなのよ。私も子どもたちもどうでもいいのよ」
和子の目からはふたたび涙がこぼれ落ちる。こらえ切れずに千夏が泣き出した。小学校低学年の女の子だから大きな声を抑えられない。すると、今度はそれにつられて学も泣き出す。三人の泣き声に囲まれ、透はとうとう観念したようだ。
「わかったよ。こうなったらもう、本当のことをみんなに話すよ」
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