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6
事件解決から二日後。
実質的にマリさんに敗北したオワリちゃんはずっと部室のソファの上で軟体動物みたいにグデーっとなっていた。
「……まあでも、格ゲーマー同士で友だちになれたんだからオッケーですね」
なんか気まずくて慰めると、
「なにがオッケーなものか。わたしの計画を台無しにされた」
と吐き捨てるように言って、オワリちゃんはため息を吐いた。
「計画ってなんだったんですか?」
「eスポーツ部を創らせて、学校でも『SAIKYOU5』をやり放題にする計画だよ」
「あー……」
そういうことだったのか。うまくマリさんや伊織さんを唆して自分の理想とする環境を手に入れようとしていたんだ。やっぱりオワリちゃんは終わっている。
「マリさんはその計画に勘づいたってことですか?」
「それに加えて伊織ちゃんがああいう提案をすることまで分かっていたんだろう。そりゃそうだ、マリに感化されて生徒会に入るタイプの人間だったんだから。残念ながらあいつらはわたしたちとはちがう人間だ」
わたしも一緒にされているなと思いながら不満そうにため息を吐くオワリちゃんに、
「仲が悪いみたいですけど、マリさんとはどういう関係なんですか?」
と、ずっと気になっていたことを思い切って訊いてみる。
「あれはわたしの双子の姉だ」
予想外過ぎる事実をあっさりと答えるオワリちゃん。
「えっと……二卵性ですか?」
「なぜそうなる。一卵性だ。気に食わないがそっくりじゃないか」
軟体動物のオワリちゃんとマリさんの凛とした美貌が違い過ぎてとてもじゃないけど信じられなかった。だけど事件解決のときのマリさんのニヤリ顔がオワリちゃんと同じ不気味な笑顔に見えたのを思い出す。見た目に無頓着なオワリちゃんもちゃんとすればマリさんくらいの品と威厳が備わるんだろうか?
「でもマリさんとは名字が違いますよね」
「今は『民谷マリ』を名乗っているが、あいつの本名は『四方末始』だ」
「はじまりからまりだけをとったってことですか?」
「そうだ」
複雑な家庭事情がありそうだからさすがにこれ以上は踏み込んで聞けなかった。
「まあ、マリは厄介だが敵じゃない。お互いに不可侵条約を結んでいるような感じだな。今回は異例中の異例だ」
「マリさんはなぜ力を隠しているんですか?」
「ふん」
わたしの素朴な疑問をオワリちゃんが鼻で笑う。
「それは幽霊部に入る前のきみと同じ理由さ」
「あー」
こんな力を持っていることを知られるメリットなんてないし、むしろデメリットの方が大きい。伊織ちゃんが最強レベルの格ゲーマーだということを隠していたのも同じ理由だし、わたしのIDが「獰猛なゴリラ男」なのも同じ理由だ。大っぴらに活動している幽霊部のほうがどうかしているんだ。
「そんなことより要ちゃん、修行は進んでいるかい?」
「うーん、まだよく分からないです」
オワリちゃんに言われたとおり「魂」を意識した生活をしているけど、今のところなにも感じなかった。ひとりくんとちがって、わたしには無理なんじゃないだろうかとさえ思う。
「まあ、ゆっくりやっていこう。今日は優もいないから『触れる修行』もできないからな」
言って、ソファから腰を上げたオワリちゃんが腰のストレッチをして、
「というわけで、わたしは帰って『SAIKYOU5』をやることにするよ」
と、いつもの不気味な笑みを浮かべた。よかった、少しは元気が出たようだ。
「ランクは上がりました?」
「もうすぐシルバーに上がるブロンズ4だ」
下がっている。
「まあ、ゆっくりやっていくさ」
わたしの心の中のツッコミとは裏腹にオワリちゃんがあっけらかんと言った。でも確かにオワリちゃんの言うとおりだ。まだぜんぜんできていないけど、わたしも『触れる力』の修行をじっくりゆっくりとやっていこう。オワリちゃんには内緒だけど『SAIKYOU5』はプラチナ1まで上がったし、何事も継続は力なりだ。なんだかんだ生徒会のストイックな感じより、幽霊部の緩い雰囲気のほうがわたしにはあっているのかもしれない。
ゆっくりだ。
ゆっくりやっていこう。
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