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「さっきからなにを言っているんだ、きみは?」
鈍感なのか、オワリちゃんは全く気がついていないらしい。
「あなたに言ってもしょうがないことだけどね」
「ふん。ところで先生、昔ここら辺に池や沼があったりしました?」
金川さんと佐竹さんの関係には興味がないのか、オワリちゃんは曳田先生に意味の分からない質問をした。
「うーん、ぼくは分からないな」
「そうですか。わかりました」
曳田先生にニコリと笑い、
「要ちゃん、もういいぞ。帰ろう」
と言って、立て続けに起こることに頭がついていけないわたしの手を引いたオワリちゃんは更衣室へ向かった。
中へ入ると、ベンチに腰掛けて頭を抱えていた金川さんが顔を上げた。
「金川ちゃん、安心したまえ。ある程度は把握した。これから捜査をはじめる。それじゃ、帰るとするよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
ほとんど叫ぶように言って、金川さんがオワリちゃんの腕を掴む。
「捜査なんか必要ないでしょう! アレを今すぐどうにかしてよ!」
「だから、そのために調べることがあるんだよ」
「ふざけないで! 落ちこぼれのくせに!」
「ほお」
心底愉快そうな笑みを浮かべて、オワリちゃんがゆっくりと金川さんに向き直る。
「そうやって他人を見下しているから、水泳部の雰囲気が最悪なんじゃないのか?」
「わたしは本気じゃないひとたちが嫌いなだけ」
「本気かどうかは人それぞれだろう。あまりに自分本位だな。ほかの水泳部員に今回の件を相談しなかったと言っていたが、できなかった、の間違いだろう。もっと自分から歩み寄ってみてはどうだ? ひとは結局、独りでは生きていけないんだよ」
「……あなたにだけは説教されたくない」
「ふん。まあいい、きみの人生だ」
呆れたように鼻を鳴らしてオワリちゃんがプールを出て行く。
慌てて制服に着替えて後を追うと、
「色々と調べることはあるが、金川ちゃんには少しばかりお仕置きが必要だな」
と、オワリちゃんが邪悪な笑みを浮かべた。
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