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 プールからの帰り道。 「着替えとかあります?」  さすがに心配になって、わたしはずぶ濡れのオワリちゃんに訊いた。 「きょうは体育があったからジャージを持って来ている」 「あー、それなら大丈夫ですね」 「ふん、なにが大丈夫なものか。心がズタズタだよ、わたしは」 オワリちゃんが不満げに口を尖らせる。 「まあまあいいじゃないですか、ハッピーエンドみたいだし」 「あんな青春ドラマを見せつけられたら今日は眠れないじゃないか! その間、わたしは河童と殴り合っていたんだぞ!」 オワリちゃんが頭を抱えて空を仰ぐ。 「ところで要ちゃんは『幽霊部』に入ってくれるのか? せめてそれくらいの収穫がないと、ほんとに悔しくて眠れない」  いきなりオワリちゃんのターゲットが変わって、わたしは戸惑った。これで断ったりしちゃったら、金川さんと梶宮さん、それに水泳部がどうなるか分かったものじゃない。  どうしようかと迷っていると、 「待って!」  と呼び止められ、振り向くと制服姿の金川さんだった。 「ほんとうにありがとう。あなたには礼を言っても言い切れない」 「ふん。礼ならさっき聞いたさ」  もはや興味を失ったのか、オワリちゃんがつまらなそうにする。 「素敵な青春ドラマを見せてもらってこちらこそ感謝したいくらいだ。良かったな、梶宮くんと付き合えることになって。お幸せに」 「そのことなんだけど、ひとつだけ分かってほしいの。二か月前に健に告白をしてフラれたのは事実だし、そのときはあなたが言っていたとおり恋愛の神様を恨んだけど、蹴り倒したりなんて、ほんとうにしていないの」 「は?」  意味が分からないといった顔になるオワリちゃん。わたしもとなりで同じ顔になる。 「本当に本当か、金川ちゃん?」 「今更こんなウソをつく意味がないでしょ。じゃあ、戻るね。ほんとにありがとう、四方末さん」  考え込むオワリちゃんに礼を言って、清々しい笑顔の金川さんはプールへ戻って行った。
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