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「おれに聞かれても分からないよ。いつも使っている道だけどなにも起きないし」
「それが最大の謎なんだよ、柿谷くん」
更に翌日の放課後、部室に呼び出した柿谷くんへの尋問がはじまった。
「むしろおれはズル道で大幅に時間を短縮できるから遅刻しないですんでるんだよ。木原がバカなこと言っているみたいだけど、そんなこと起こるわけがないだろ」
伊織さんを鼻で笑った柿谷くんは、伸び切った髪についている寝ぐせすら気にしていないズボラな人だった。シャツもズボンからはみ出しているしずっとあくびをしているし、伊織さんと正反対の不真面目な人間だろうなってことはさすがのわたしにも分かる。
「まあ、きみとは反りが合わないだろうな」
「いつも『ゲームだけやっていてもプロにはなれない』って言って来るんだ。あいつが遅刻した前の日も口げんかになったから、『SAIKYOU5』で勝ったら言うことを聞いてやるって言ったら黙り込んじゃったよ」
「……ほお」
「でも木原の遅刻とおれになんの関係があるんだ?」
「まだ確信はできないが、わたしはきみが事件に深くかかわっていると思っている」
きっぱりと言い切って、オワリちゃんが不気味な笑みを浮かべた。またなにか良からぬことを考えているのだろう。
「きみも知ってのとおり、わたしは『幽霊部』だ。怪奇現象がらみの事件をボランティアで解決する活動をしている」
「……まさかおれが結界を張ったとでも言いたいのか?」
「いや、残念ながらきみにそんな能力はない。ただの凡人だ」
オワリちゃんの失礼な言葉に立ち上がりかけたところをひとりくんに宥められ、圧倒された柿谷くんがふたたび腰を下ろす。
「もう帰ってもいいだろ? 『SAIKYOU5』をしたいんだよ」
「さっきも言っていたが、本気でプロになるつもりなのかい?」
「ああ、おれの夢は世界最強の格ゲーマーだ」
ここまではっきりと自分の夢を語れるなんて凄いなあ。わたしは未だに将来の夢が明確にあるわけじゃないから、その点だけで言えば柿谷くんを尊敬できる。
「ちなみにきみのランクは? わたしはもうすぐシルバーに上がる、ブロンズ5だが」
自慢気に言って、オワリちゃんがソファにふんぞり返る。
「ダイヤ3だよ」
「ぎゃひいっ!」
オワリちゃんが聞いたこともない声を上げてソファから転げ落ちた。ここまで無様な人を初めて見たから、その点だけで言えばオワリちゃんを尊敬できる。
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