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「ダダダ、ダイヤ3様であられましたか」  オワリちゃんの驚愕ももっともだった。『SAIKYOU5』は、プラチナ帯までは初中級者のモチベーションを維持するために最低でも46%以上という負け越しの勝率でもランクが上がっていくポイントシステムになっている。でもダイヤ帯からは55%以上の勝率を維持しないと上がれなくなる。つまりダイヤ3は勝ち越せているわけで、マジで凄い。 「ほんとは根崩高校にeスポーツ部があればいんだけど、どうやれば作れるのかもわからないからひとりでずっと頑張っているんだ」 「いやはや尊敬します。こんどわたしにコーチングをお願いできますでしょうか?」  揉み手をしながら柿谷くんに聞くオワリちゃんが、とことん情けなく見える。 「『シブガキ』ってIDでやっているから、検索してフレンド申請しといてよ。おなじクラスに弟子がふたりいるから、ランクを上げるコツは教えられる。格ゲー仲間が増えるのはそれだけで嬉しいからさ」 「わたしは『オワリチャン』というIDなのでよろしくお願いします、師匠!」  いつのまにかオワリちゃんが柿谷くんの弟子になってしまった。 「分かった。じゃあもう帰っていいか?」 「師匠、あと四つだけ聞かせてください」 「多くね?」  うんざりする柿谷くんと同じく、わたしも多くね?と思った。さっきも言っていたとおり、オワリちゃんは彼が今回の事件の重要人物だと確信しているのだろう。 「すぐに終わります。ひとつ目。伊織ちゃんが遅刻した日、師匠も遅刻しましたか?」 「……前の日に『SAIKYOU5』をやっていたらフレンド申請が飛んできたんだ。『キイロイ』っていう知らない名前だったけどダイヤ5の人で、ボコボコにされたけど楽しくなって深夜三時くらいまで対戦していたから起きたのが朝の十時だった。また木原に小言を言われるのも嫌だったから、あの日はサボったよ」 「そうですか。さぞや白熱した戦いだったんでしょうねえ」  あくまでも下手に出るオワリちゃんの真意がわたしにはさっぱり分からなかった。 「ではふたつ目。師匠はズル道をどうやって知ったんですか?」 「七個上の兄貴がいてさ。兄貴も根崩高校の出身でズル道をよく使っていたらしくて、入学したときに教えてくれたんだ」 「なるほど。みっつ目。伊織ちゃんに『ズル道』を教えたのは師匠ですか?」 「そんなわけないだろ。何度も言うけど、おれは木原が苦手なんだよ」 「分かりました。よっつ目、この六日間で師匠は遅刻をしましたか?」 「……一回だけな。そのときもズル道を使ったけど遅刻した。いつもとおなじ時間しかかかってないはずだったのにさ」 「なるほど、分かりました」 「じゃあ、いい加減に帰るよ」  三度目の宣言でようやく解放された柿谷くんが帰って行った。 「伊織さんが遅刻した日に柿谷くんが遅刻したかどうかって、関係あるんですか?」  柿谷くんへの四つの質問の意味がわたしには分からなかった。とても『発動条件』に関係する質問だとは思えない。 「そうだな。ここで今回の事件の気になる点を整理しよう」  言って、オワリちゃんがホワイトボードに、  1 ズル道の結界の力はなぜ木原伊織にだけルールを発動させたのか?  2 ズル道を頻繁に使っている柿谷翔人にはなぜルールが発動しないのか?  3 事件前夜、木原伊織はほんとうに勉強をして夜更かしをしたのか?  4 ズル道に結界を張ったのは誰か?(野良の結界だったので解決済み)  という四つの点を重要度の順に書いていった。 「ぼくにはさっぱり分かりません」  首を傾げる前島くんと同じく、わたしにもなにがなんだかさっぱりだ。 「ふっふっふ。もうすべて分かったよ」 「え、ほんとうですか?」  わたしの戸惑いなんて気にすることもなくオワリちゃんが不気味に笑った。さっぱり分からない。柿谷くんからも伊織さんからも大した情報を引き出せたとは思えないんだけど。 「さっぱり分からないといった顔だな、要ちゃん」 「はい」 「ではひとつヒントをあげよう。わたしは今の聞き込みの最中にこれを使って師匠にある検証をしていたんだ」  と言ってオワリちゃんが指さした制服の胸ポケットには、伊織さんの物と同じゲンゲツのキーホルダーがぶら下がっていた。 「ゲンゲツが関係しているんですか?」 「べつにキャラクターはなんでもよかったんだが、ガチャガチャで出たのがたまたま伊織ちゃんとおなじゲンゲツだったんだ」  さっぱり分からないどころかもっとわけが分からなくなって首を傾げているわたしを見てオワリちゃんがいつもの不気味な笑みを浮かべた。
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