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「伊織ちゃんの寝坊の理由という謎がまだ残っている」
「だから勉強をしていて」
「それはウソだ。勉強をしていて寝坊をしたのなら、きみの真面目さから考えて正門ルートで遅刻することを選択していただろう。だがきみはどうしても遅刻するわけにはいかなかった。寝坊した本当の理由を知られたくない人物がいたからだ」
「……なんのことか分かりません」
「いいだろう。では質問相手をかえようか」
言って、オワリちゃんの視線が柿谷くんに移る。
「師匠、あなたは伊織ちゃんが遅刻した日、寝坊して学校をサボったそうですね」
「ああ、まあ」
マリさんのことが怖いのか、小さく答える柿谷くん。
「前日、なにをしていて寝坊をしたのですか?」
「言っただろ、『SAIKYOU5』をやっていたら格上の知らない人からフレンド申請が来て、嬉しくてボコボコにされながら深夜まで対戦していたんだよ」
「ちなみに使用キャラはなんでした?」
「それがさ、ゲンゲツだったんだよ」
「それは凄い。何をしてでも教えを乞いたいですよねえ」
「教えてもらえるならなんでもするよ」
「ほほう」
不気味に笑うオワリちゃんの視線が再び伊織さんに戻る。
「キイロイちゃん、師匠はなんでもするそうだ」
「……」
押し黙る伊織さんとオワリちゃんを交互に見て、きょとんとする柿谷くん。
「木原が『キイロイ』だって? そんなわけないだろう」
「ここからは状況証拠だけの憶測です。まず伊織ちゃんに話を聞いたとき、彼女のペンケースにゲンゲツのキーホルダーが付いているのを発見しました」
「だからあれは父にもらった物です」
「そんなことはどうでもいいんだ、伊織ちゃん。引っかかったのは、わたしが『ゲンゲツ使いなんて渋いね』と言ったときにきみが『使ったことがない』と答えたことだ。ゲンゲツは新キャラだから少なくともきみは『SAIKYOU5』をプレイしたことがあるということになる」
言われてみれば、確かにそうだ。
「次に引っかかったのは師匠への聞き込みでのことだ。クラスメイトと『SAIKYOU5』の話をする度にきみに小言を言われてうんざりしていたらしい。寝坊した前日には口論にまで発展していたそうだね。師匠、そのとき伊織ちゃんになんと言いました?」
「おれに『SAIKYOU5』で勝てたら、なんでも言うことを聞いてやるって言った」
「その夜に『キイロイ』という謎のプレイヤーから対戦を挑まれたと」
「だけど木原にIDを教えたことなんてないよ」
「以前わたしにIDを教えてくれましたが、そのようなやりとりを教室でしたことは?」
「まあ、クラスの弟子とはやったけど」
「それを伊織ちゃんは聞いていたのでしょう。ズル道の話を聞いていたように」
「盗み聞きかよ」
「となりの席のひとの話が耳に入るのは盗み聞きとは言いません、師匠」
「それだけだと、ただの憶測でしかないわ」
マリさんが反論する。
「だから勝手な憶測だと言っているだろう。最後に確度の高い戯言を聞いてくれ」
オワリちゃんが舌なめずりをして伊織さんを見た。
「謎のゲンゲツ使いである『キイロイ』だが、よく分からない名前だ。IDなんて意味のないものをつけることがほとんどだが、どうしても気になったからローマ字で考えてみた。つづりは『KIIROI』だ」
「それがなんなの?」
「逆から読むと、『IORIIK』、『いおりあいけー』になる。つまり逆さまの『IORI』に木原の『木』を逆さまにしてくっつけると『キイロイ』になるんだ。これもただの偶然でわたしの勘違いかもしれないが」
確かにすべてオワリちゃんの憶測でしかないけど、傍から聞いていても一応の筋道が通っているように思える。
「ほんとうなの、木原さん?」
マリさんに訊かれた伊織さんが顔を真っ青にする。
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